医学放浪記https://med-journey.comお手頃サイズの医学知識まとめMon, 16 Sep 2024 15:27:26 +0000jahourly1https://med-journey.com/wp-content/uploads/2023/10/cropped-favicon_ih3-32x32.png医学放浪記https://med-journey.com3232 文字数をカウントするツール【全角1文字・半角0.5文字】https://med-journey.com/count/https://med-journey.com/count/#respondMon, 16 Sep 2024 07:21:49 +0000https://med-journey.com/?p=2211

日本造血・免疫細胞療法学会は総会Webサイトで全角文字数換算(全角1文字、半角0.5文字)のツールを提供してくださっています。 ▼下記は2024年のものです。 全角も半角も1文字としてカウントする時に便利な文字数カウント ... ]]>

学会発表の時期になってきたけれど、抄録の文字数をカウントするのが地味に面倒なんだよね。Wordのカウントと、登録する時のWebサイトのカウントする基準が違うこと結構あるよね・・・

だいたい【全角1文字・半角0.5文字】(全角文字数換算)でカウントすることが多いよね。無料の文字数カウントツールを集めたよ!

シンプル

学会提供の文字数カウントツール

日本造血・免疫細胞療法学会は総会Webサイトで全角文字数換算(全角1文字、半角0.5文字)のツールを提供してくださっています。

▼下記は2024年のものです。

サルワカ道具箱

全角も半角も1文字としてカウントする時に便利な文字数カウントツールです。リアルタイムに文字数が表示され、かつデザインもシンプルで気に入っています。

numMojiなんもじ

リアルタイムで文字数が表示されるところが便利です。

高機能

LUFTTOOLS

ルフトツールズさんは実に多彩なツールを提供してくださっています。文字数カウントも空白有無や、全角・半角を何文字と数えるか等細かくみることができて便利です。

NES株式会社ご提供の文字数カウントツール

全角文字数、半角文字数、Enter改行のカウント設定別に文字数を計算してくれます。かゆいところに手が届く仕様になっていて大変ありがたいです。感謝!

▼紹介記事はこちらです。入力した情報はサーバに保存されず、ブラウザ内で処理するPHPプログラムとのことです。

タイッツー開発者による文字数カウントツール

なんと絵文字もカウントできるという高機能な文字数カウントツールです。

アプリ

Notion文字数カウント

Notionユーザーにとって嬉しいツールです。Notionで学会準備をする研究者も増えてきていると思います。

PopClip

Macの神アプリ PopClip にも、拡張機能 Text Statistics に3つのカウントツールがあります。選択するだけで文字数をカウントできるので、とても早くて便利です。

  • Character Count 全角も半角も1文字として文字数をカウント
  • Word Count 単語数をカウント
  • Line Count 行数をカウント

▼PopClipについてはこちらの記事で紹介しています。

編集ソフトの文字数の数え方

Word

Wordの左下に表示される文字数(単語)は英単語数と日本語の文字数の合計になっています。「おはよう」も、”This is a pen.”も4単語とカウントされます。空白や改行はカウントされていません。

校閲>文章構成>文字カウントで下記のように詳しく数えることができますが、学会抄録でよくある全角文字数換算は含まれていません。

CotEditor

Mac専用ですが、シンプルかつ高機能なテキストエディターで愛用しております。左下に表示される文字数は全角も半角も1文字としてカウントされています。

参考

当ブログ「医学放浪記」では論文周りの有用なツールをまとめています。良かったら下記ページから閲覧してみてください。

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https://med-journey.com/count/feed/0
抗真菌薬のスペクトラムとポイントのまとめhttps://med-journey.com/antifungal/https://med-journey.com/antifungal/#respondSun, 08 Sep 2024 09:53:15 +0000https://med-journey.com/?p=2166

アゾール系・キャンディン系・ポリエン系のおおまかなスペクトラムは下記です。ただし下表は大まかな傾向を示すもので、たとえば希少深在性真菌症について実際にはムーコルをL-AMB・PSCZ・ISCZがカバーし、フサリウムをVR ... ]]>

抗菌薬の資料はたくさんあるけれど、抗真菌薬の資料って意外と少ないよね

この記事で代表的な抗真菌薬のスペクトラムとポイントをまとめるよ!

真菌別のスペクトラムまとめ

大枠

アゾール系・キャンディン系・ポリエン系のおおまかなスペクトラムは下記です。ただし下表は大まかな傾向を示すもので、たとえば希少深在性真菌症について実際にはムーコルをL-AMB・PSCZ・ISCZがカバーし、フサリウムをVRCZがカバーする等、細かいところが多々ありますので、ご注意ください。

FLCZITCZ
VRCZ
PSCZ
ISCZ
MCFG
CPFG
L-AMB
カンジダ    
アスペルギルス    
希少深在性真菌症    

L-AMBを中心としてまとめる方法もあり、スッキリします。代表的な酵母としてカンジダとクリプトコックスを、代表的な糸状菌としてアスペルギルスとムーコルを覚えると分かりやすいです。

L-AMB効果ありL-AMB効果なし
酵母カンジダ
クリプトコックス
C. lusitaniae
トリコスポロン
糸状菌アスペルギルス
ムーコル
A. terreus
フサリウム
スケドスポリウム
二相性真菌Blastomyces
Coccidioides
Histoplasma
Sporothrix
寄生虫リーシュマニア

カンジダ

カンジダは大きくC. albicansnon-albicans Candida(NAC)に分かれます。さらにNACの中では、C. parapsilosis(特にカテーテル関連血流感染が多い)、C. tropicalis(好中球減少下で重症化する)、C. krusei(FLCZとITCZが効果乏しい)、C. glabrata(アゾール系全般が効果乏しい)の4つが代表的です。

MCFGとCPFGは、C. parapsilosisのMICがやや高めだと言われていますが、病的意義は不明です。L-AMBはC. lusitaniaeに無効です。近年、多剤耐性のC. aurisのアウトブレイクが報告され、WHOが注意喚起しています。

出現頻度[%]FLCZITCZVRCZPSCZISCZMCFGCPFGL-AMB
C. albicans40-60        
C. parapsilosis5-30        
C. tropicalis5-30        
C. krusei2-4        
C. glabrata5-30        
C. lusitaniae0.5-1        
C. kefyr0.5-1        
C. guilliermondii0.5-1        
C. auris<0.01         

アスペルギルス

FLCZはアスペルギルスに対して無効ですが、ITCZ以降のアゾール系は有効で、特にVRCZが用いられることが多いです。キャンディン系もカバーしていますが、明らかなアスペルギルス肺炎ならばVRCZ・PSCZ・ISCZのほうが一般的に優先されます。L-AMBはA. terreusに対して無効です。

FLCZITCZVRCZPSCZISCZMCFGCPFGL-AMB
A. fumigatus        
A. flavus        
A. niger        
A. terreus        

希少深在性真菌症(ムーコル等)

VRCZは希少深在性真菌症に対するキードラッグですが、VRCZはムーコルをカバーしていません。ムーコルに対しては、限局している時には手術を考慮し、抗真菌薬としてはL-AMB点滴が第一選択となります。長期治療が必要となりますので、内服への移行時はPSCZあるいはISCZを用いることとなります。PSCZは中枢神経系に届きにくいですが、ISCZは中枢神経系にも届きやすいです。

MCFGとCPFGはクリプトコックスをカバーしていませんので、市中からの持ち込みの感染では忘れないようにします。白血病寛解導入ではMCFG 50mgで予防投与することも多いかと考えられますが、クリプトコックスが盲点になることがあります(同様に、細菌では、MEPMやTAZ/PIPCがカバーしていないレジオネラ肺炎が盲点になることがあります)。

FLCZITCZVRCZPSCZISCZMCFGCPFGL-AMB
ムーコル        
フサリウム        
トリコスポロン        
スケドスポリウム        
クリプトコックス        

抗真菌薬別のポイントまとめ

アゾール系

まず、FLCZ(フルコナゾール)とF-FLCZ(ホスフルコナゾール、プロジフ)のポイントです。

FLCZのポイント
  1. FLCZは、C. albicans、C. parapsilosis、C. tropicalisをカバーし、C. krusei、C. glabrataをカバーしていない。
  2. FLCZは、クリプトコックスをカバーし、アスペルギルス、ムーコル、フサリウム、トリコスポロン、スケドスポリウムをカバーしていない。
  3. 予防:FLCZ(100mg)1〜2T/1x 朝後
  4. 口腔カンジダ:FLCZ(100mg)1T/1x 朝後 7〜14日間
  5. 食道カンジダ:FLCZ(100mg)2T/1x 朝後 14〜21日間
  6. 症候性カンジダ性膀胱炎:FLCZ(100mg)2T/1x 朝後 14日間
  7. 上行性カンジダ性腎盂腎炎:FLCZ(100mg)2〜4T/1x 朝後 14日間
  8. カンジダ膣炎:軽症ならFLCZ150mg単回内服 重症ならFLCZ150mg内服を3日ごとに2〜3回
  9. FLCZ 点滴:800mg/400mL 1日1回2時間でdiv x2日間 → 400mg/200mL 1日1回1時間でdiv
  10. F-FLCZ 静注:800mg/10mL 1日1回1分でiv x2日間 → 400mg/5mL 1日1回30秒でiv(F-FLCZはFLCZのプロドラッグで、FLCZの40分の1の液量)
  11. 腎障害(CCr<50)で半減する。
  12. 肝障害、消化器症状、皮疹に注意する。相互作用は必ずチェック!

次に、ITCZ(イトラコナゾール)のポイントです。

ITCZのポイント
  1. ITCZのスペクトラムは、FLCZより少し広がり、アスペルギルス二相性真菌をカバーする。
  2. ITCZはABPAのPSL併用、CPPAの維持、真菌感染予防(推奨度は低い)、爪白癬へのパルス療法で用いる。
  3. ITCZは吸収率と移行性が悪い。吸収率を上げるために、内用液は空腹時(食間や就寝前)カプセル・錠剤は食直後に内服する。眼・中枢神経に移行しない。
  4. 例:治療で内用液20mL 1日2回予防で内用液20mL 1日1回、CCr<10で半減
  5. 副作用は消化器症状(嘔気・嘔吐・腹痛・下痢)13〜24%で、FLCZやPSCZより多い。肝障害7〜32%で、FLCZやPSCZと同様。腎障害5〜7%、皮疹4〜7%
  6. 代表的なCYP3A4阻害剤で、半減期も長いため要注意。P-gpも阻害する。

続いて、VRCZ(ボリコナゾール、ブイフェンド)のポイントです。TDMが必要です。

VRCZのポイント
  1. VRCZは、カンジダ(C. krusei C. guilliermondii を含む)、アスペルギルス(IPAの第1選択)、フサリウム、トリコスポロン、スケドスポリウム、クリプトコックスをカバーし、ムーコルをカバーしていない。
  2. VRCZは、1日目600mg/2x、2日目以降300〜400mg/2x 朝夕食後2時間で投与し、トラフ濃度 1〜4 μg/mL を目標としてTDMを行う。点滴の場合、1日目6mg/kgを12時間毎、2日目以降3〜4mg/kgを12時間毎、1V200mgあたり注射用水19mLが必要。
  3. VRCZは腎障害で減量不要だが、CCr<50mL/minで添加剤の蓄積毒性のため点滴を避ける。肝障害 Child-Pugh A・Bで維持量を半減、Cでトラフ濃度 1〜3 μg/mL とする。肥満で補正体重を用いる。
  4. 視覚障害、肝障害に注意する。長期投与で骨周囲炎、関節炎に注意する。
  5. CYP3A4→Tac・CsA・CY・VCR等、CYP2C19→LTV等と相互作用に注意する。

そして、PSCZ(ポサコナゾール、ノクサフィル)のポイントです。

PSCZのポイント
  1. PSCZはカンジダ、アスペルギルス、ムーコル、トリコスポロン、スケドスポリウム、クリプトコックスをカバーし、フサリウムをカバーしない。VRCZはムーコルをカバーせず、フサリウムをカバーする。
  2. PSCZは中枢神経に届きにくいTDMは保険適応なし
    VRCZは中枢神経に届き、TDMが可能である。
  3. PSCZは初日のみローディングが必要。PSCZは食後で良いが、VRCZは空腹時。
    1日目 ノクサフィル(100mg) 6T/2x 朝夕後
    2日目〜ノクサフィル(100mg) 3T/1x 朝後
  4. PSCZ点滴は添加剤SBECDの腎への蓄積毒性に注意。用量は内服と同様。
    1日目 ノクサフィル 300mg + 生食250mL 1日2回 中心静脈に90分でdiv
    2日目〜ノクサフィル 300mg + 生食250mL 1日1回 中心静脈に90分でdiv
  5. 消化器症状・肝障害・偽性アルドステロン症での低K血症に注意する。
  6. CYP3A4を強く阻害し、Tac・CsA・VCR・CY・VEN・Pona・Ruxo等の濃度を上げる。
  7. PSCZはAML/MDSの好中球減少期、移植後のGVHD発症期に真菌感染予防としてエビデンスが確立されている。

新発売のISCZ(イサブコナゾール、クレセンバ)のポイントです。

ISCZのポイント
  1. ISCZの適応はアスペルギルス・ムーコル・クリプトコックス
  2. ISCZは2日間のローディングが必要。食後も空腹時も可。
    1〜2日目 クレセンバ(100mg)6T/3x
    3日目〜 クレセンバ(100mg)2T/1x
  3. ISCZ点滴は、PSCZと異なり、SBECDを含まず腎臓に優しい。末梢投与可。
    1〜2日目 クレセンバ200mg + 注射用水5mL + 生食250mL/1時間以上 q8h
    3日目〜 クレセンバ200mg + 注射用水5mL + 生食250mL/1時間以上 q24h
  4. 副作用はVRCZより少ないが、消化器症状(嘔気 10〜27.6%、嘔吐 15.5〜27%、下痢 15.5〜32%)、肝障害 8.6〜9%、低K血症 17.5〜18.2%、頭痛 16%、QT短縮、infusion-related reactionsに注意する。
  5. CYP3Aを中等度に阻害する(FLCZと同等)。中枢神経系に移行する。

キャンディン系

使用頻度の高いMCFG(ミカファンギン、ファンガード)のポイントです。

MCFGのポイント
  1. MCFGはβ-(1,3)-Dグルカン合成を阻害し、カンジダに殺菌的に、アスペルギルスに静菌的に作用する。β-(1,6)-Dグルカンが主体のムーコル、フサリウム、トリコスポロン、クリプトコックス、α-Dグルカンが主体の酵母相の二相性真菌に効果が乏しい。
  2. 予防の MCFG 50mg + 生食100mL 1日1回30分でdiv
    治療の例 MCFG 100〜150mg + 生食100mL 1日1回1時間でdiv
  3. CNSへの移行性は不良。主な副作用は肝障害。肝障害・腎障害での減量なし。

CPFG(カスポファンギン、カンサイダス)のポイントです。日本での承認はMCFGの後ですが、CPFGのほうが古い薬です。

CPFGのポイント
  1. CPFGはMCFGと同様に、β-(1,3)-Dグルカン合成を阻害し、カンジダに殺菌的に、アスペルギルスに静菌的に作用する。β-(1,6)-Dグルカンが主体のムーコル、フサリウム、トリコスポロン、クリプトコックス、α-Dグルカンが主体の酵母相の二相性真菌に効果が乏しい。
  2. CPFGはローディングが必要。投与例:
    1日目 CPFG 70mg + 生食250mL 1日1回2時間で点滴
    2日目〜CPFG 50mg + 生食100mL 1日1回1時間で点滴
  3. CNSへの移行は不良。主な副作用は肝障害。
    肝硬変Child-Pugh Bで50mg→35mgに減量あり。腎障害で減量なし。

2024年現在、日本では未承認ですが、ANFGとRZFGも期待されています。

  • CPFG(カスポファンギン、商品名カンサイダス)
  • MCFG(ミカファンギン、商品名ファンガード)
  • ANFG(アニデュラファンギン) ※日本で未承認
  • RZFG(レザファンギン) ※日本で未承認、週1回投与

ポリエン系

L-AMB(アムビゾーム)のポイントです。

L-AMBのポイント
  1. L-AMBは、大半の真菌(カンジダ・アスペルギルス・ムーコル・クリプトコックス)に殺菌的に作用するが、C. lusitaniaeA. terreus、フサリウム、トリコスポロン、スケドスポリウムに効果が乏しい。
  2. 投与例:下記①②③合わせて1日1回1〜2時間でdiv
    L-AMB 2.5〜5mg/kg(用量はFN 2.5mg/kg、最大5mg/kg、クリプトコックス髄膜炎6mg/kg)
    注射用水(L-AMB 50mgあたり)12mL
    5%ブドウ糖250mL(L-AMB 2.5mg/kg未満なら100mL可)
  3. 主な副作用は、腎障害、低K血症、低Mg血症、点滴中の発熱・寒気・嘔気
    ただし腎障害で減量規定はない。幹細胞輸注日には投与しない
  4. L-AMBは腎障害を軽減するDDS(Drug Delivery System)の性質を有するが、そのために尿路への移行性が悪く真菌性尿路感染症には適さない。真菌性髄膜炎に治療実績がある。

参考資料

1) 深在性真菌症の診断・治療ガイドライン 2014 小児領域改訂版(2016年)

2) 日本医真菌学会編:侵襲性カンジダ症に対するマネジメントのための臨床実践ガイドライン(2021年)

3) 日本造血・免疫細胞療法学会編:造血細胞移植ガイドライン 真菌感染症の予防と治療 第2版(2021年)

4) 日本化学療法学会/日本TDM学会編:抗菌薬TDM臨床実践ガイドライン VRCZ更新版(2022年)

5) 日本医真菌学会編:希少深在性真菌症の診断・治療ガイドライン(2024年)

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https://med-journey.com/antifungal/feed/0
アムビゾームの特徴と投与方法https://med-journey.com/l_amb/https://med-journey.com/l_amb/#respondSun, 04 Aug 2024 03:40:09 +0000https://med-journey.com/?p=2032

アムビゾーム(一般名:リポソーマル アムホテリシンB 英語:Liposomal Amphotericin B 略称:L-AMB)の特徴と投与方法をまとめます。 抗真菌薬は大きく4種類に分けられます。 アゾール FLCZ, ... ]]>

アムビゾーム(一般名:リポソーマル アムホテリシンB 英語:Liposomal Amphotericin B 略称:L-AMB)の特徴と投与方法をまとめます。

まとめ
  1. L-AMBは、大半の真菌(カンジダ・アスペルギルス・ムーコル・クリプトコックス)に殺菌的に作用するが、C. lusitaniaeA. terreus、フサリウム、トリコスポロン、スケドスポリウムに効果が乏しい。
  2. 投与例:下記①②③合わせて1日1回1〜2時間でdiv
    L-AMB 2.5〜5mg/kg(用量はFN 2.5mg/kg、最大5mg/kg、クリプトコックス髄膜炎6mg/kg)
    注射用水(L-AMB 50mgあたり)12mL
    5%ブドウ糖250mL(L-AMB 2.5mg/kg未満なら100mL可)
  3. 主な副作用は、腎障害、低K血症、低Mg血症、点滴中の発熱・寒気・嘔気
    ただし腎障害で減量規定はない。幹細胞輸注日には投与しない
  4. L-AMBは腎障害を軽減するDDS(Drug Delivery System)の性質を有するが、そのために尿路への移行性が悪く真菌性尿路感染症には適さない。真菌性髄膜炎に治療実績がある。

L-AMBの位置付け

L-AMBはポリエン系

抗真菌薬は大きく4種類に分けられます。

アゾールFLCZ, ITCZ, VRCZ, PSCZ, ISCZ
MCZ(外用剤)
ポリエンL-AMB
AMB(現在では内用液として使用)
フルシトシン5-FC
キャンディンMCFG, CPFG
ANFG, RZFG(日本未承認)

L-AMBはポリエン系(ポリエンマクロライド系)に分類され、最も長く使われている抗真菌薬です。重症の真菌感染症に対して最も信頼されている薬の一つです。

アゾール系が真菌細胞壁のエルゴステロールの合成酵素を阻害するのに対して、ポリエン系はエルゴステロールに結合することで効果を発揮します。

1960年代にAMB(AMPH-B、商品名:ファンギゾン)が登場し、カンジダ・アスペルギルス・ムーコル・クリプトコックス等を幅広くカバーし、かつ殺菌的に作用して重宝されましたが、腎障害や低K血症等の強い副作用が難点でした。現在ではハリゾンシロップやファンギゾンシロップとして効能効果「消化管におけるカンジダ異常増殖」で用いられることがあり、これらは消化管からほとんど吸収されないことを活用しています。

AMBの副作用を軽減したのがL-AMBです。脂質二分子膜でAMBを包むことで、生体細胞への副作用を軽減し、腎臓への分布を減らすというDrug Delivery System(DDS)製剤として、L-AMBが開発されました。近年、DNR+AraCをリポソームに封入したCPX-351(商品名:ビキセオス)が開発されましたが、コンセプトは似ていますね。

L-AMBがカバーしていない真菌

L-AMBはカバー範囲がとても広いため、抗菌薬でいえばカルバペネム系のようなイメージです。カルバペネム系がカバーしていない細菌を抑えることが重要であることと同じく、L-AMBがカバーしていない真菌を抑えることが重要です。

L-AMB効果ありL-AMB効果なし
酵母カンジダ
クリプトコックス
C. lusitaniae
トリコスポロン
糸状菌アスペルギルス
ムーコル
A. terreus
フサリウム
スケドスポリウム
二相性真菌Blastomyces
Coccidioides
Histoplasma
Sporothrix
寄生虫リーシュマニア

カンジダについて、L-AMBは C. lusitaniae をカバーしていません。

L-AMBは、C. aurisに対して、C. albicansよりも4倍効きづらいとのことですので、治療対象とする時にはL-AMB高用量を用います。Beredaki M-I, Sanidopoulos I, Pournaras S, Meletiadis J. Defining Optimal Doses of Liposomal Amphotericin B Against Candida auris: Data From an In Vitro Pharmacokinetic/Pharmacodynamic Model. J Infect Dis. 2024;229: 599–607.

出現頻度[%]FLCZITCZVRCZPSCZISCZMCFGCPFGL-AMB
C. albicans40-60        
C. parapsilosis5-30        
C. tropicalis5-30        
C. krusei2-4        
C. glabrata5-30        
C. lusitaniae0.5-1        
C. kefyr0.5-1        
C. guilliermondii0.5-1        
C. auris<0.01         

アスペルギルスについて、L-AMBは A. terreus をカバーしていません。

L-AMBは、A. flavusに対して少し苦手です。

FLCZITCZVRCZPSCZISCZMCFGCPFGL-AMB
A. fumigatus        
A. flavus        
A. niger        
A. terreus        

希少深在性真菌症について、L-AMBはフサリウム、トリコスポロン、スケドスポリウムが苦手です。

希少深在性真菌症のうち、L-AMBが有効なのはムーコルとクリプトコックスですが、ムーコルとクリプトコックスはβDグルカンが上昇しにくい深在性真菌症として知られています。また、希少深在性真菌症の多くにVRCZが有効ですが、VRCZ内服中のbreakthrough真菌症としてムーコルが重要で、そんなムーコルに対して点滴ならL-AMB、内服ならPSCZとISCZを用いることが重要です。

スケドスポリウムにL-AMBは無効です。スケドスポリウム症は、深部皮膚真菌症として生じることが多く、代表的な菌種は下記です。

  • 無性世代 Scedosporium apiospermum
  • 有性世代 Pseudallescheria boydii
FLCZITCZVRCZPSCZISCZMCFGCPFGL-AMB
ムーコル        
フサリウム        
トリコスポロン        
スケドスポリウム        
クリプトコックス        

移行性

L-AMBの移行性で注意すべき部位は尿路です。AMBの腎毒性を軽減するために、DDS(Drug Delivery System)としてリポソーマル化を施したわけですが、そのために尿路への移行性は低下しています。

L-AMBは真菌性尿路感染症に不適切です。

L-AMBの中枢神経系への移行性はそれほど良いわけではないですが、真菌性髄膜炎に実績があることから、下記のまとめでは良好のほうに分類しました。

中枢神経系感染への効果
良好:FLCZ、VRCZ、ISCZ、L-AMB
不良:ITCZ、PSCZ、MCFG、CPFG

白血球輸注時の注意点

L-AMBの禁忌に「白血球を輸注中の患者」と記載されているように、

L-AMBを白血球の輸注日には投与してはいけません

添付文書の相互作用の併用禁忌欄にも記載されています。

これはAMBが白血球輸注に関連した肺障害を増強する可能性が指摘されているためです。Wright DG, Robichaud KJ, Pizzo PA, Deisseroth AB. Lethal pulmonary reactions associated with the combined use of amphotericin B and leukocyte transfusions. N Engl J Med. 1981;304: 1185–1189.

L-AMBの投与方法

点滴

「アムビゾーム点滴静注用 50mg」の薬価が約11000円です。1日1回の点滴とはいえ、高価な薬剤です。

投与例:下記①②③合わせて1日1回1〜2時間でdiv
L-AMB 2.5〜5mg/kg(用量はFN 2.5mg/kg、最大5mg/kg、クリプトコックス髄膜炎6mg/kg)
注射用水(L-AMB 50mgあたり)12mL
5%ブドウ糖250mL(L-AMB 2.5mg/kg未満なら100mL可)

添付文書や製薬会社ウェブサイトに、注射液の調製法が記載されています。

腎障害・肝障害

腎障害での調節は規定されていません。ただし、L-AMBの副作用で腎障害が生じうるので注意します。特に腎毒性のある薬剤と併用している時は、さらに十分な注意が必要です。

肝障害での調節も規定されていません。

L-AMBの副作用・相互作用

副作用

L-AMBの副作用は、リポソーム化によりAMBよりも軽減されています。腎障害15%、点滴中の発熱11%、寒気37%、嘔気12%と報告されています。その他、低K血症、低Mg血症などの電解質異常、肝障害、皮疹にも注意します。Chau MM, Daveson K, Alffenaar J-WC, Gwee A, Ho SA, Marriott DJE, et al. Consensus guidelines for optimising antifungal drug delivery and monitoring to avoid toxicity and improve outcomes in patients with haematological malignancy and haemopoietic stem cell transplant recipients, 2021. Intern Med J. 2021;51 Suppl 7: 37–66.

相互作用

L-AMBはジゴキシン濃度を上昇させます。
L-AMBと腎毒性のある薬剤との併用はできるだけ避け、併用時は特に腎障害に注意します。

L-AMBを用いるような状況では、アミノグリコシド、シクロスポリン、ホスカルネット等の腎毒性のある薬剤を併用していることも多いと考えられ、十分な注意を要します。

L-AMBのエビデンス

持続する発熱性好中球減少症に対する L-AMB vs AMB(NEJM 1999)

持続する発熱性好中球減少症に対して、L-AMBがAMBと同等の効果があることを示した臨床試験です。輸注関連反応や腎障害は少なく、以後L-AMBが優先的に使用されていくこととなりました。

L-AMBAMB
症例数343344
総合臨床効果50.1%49.4%
好中球減少中の
解熱
58.0%58.1%
breakthrough
真菌感染症なし
90.1%89.2%
base-line真菌
感染症の治癒
81.8%72.7%
治験薬終了後
7日間の生存
92.7%89.5%
副作用や無効で
早期中止なし
85.7%81.4%
輸注後の発熱16.9%43.6%
腎障害
Cre1.5倍超
29.4%49.4%
低K血症6.7%11.6%
低Mg血症20.1%25.9%
Walsh TJ, Finberg RW, Arndt C, Hiemenz J, Schwartz C, Bodensteiner D, et al. Liposomal amphotericin B for empirical therapy in patients with persistent fever and neutropenia. National Institute of Allergy and Infectious Diseases Mycoses Study Group. N Engl J Med. 1999;340: 764–771.

まとめ

まとめ
  1. L-AMBは、大半の真菌(カンジダ・アスペルギルス・ムーコル・クリプトコックス)に殺菌的に作用するが、C. lusitaniaeA. terreus、フサリウム、トリコスポロン、スケドスポリウムに効果が乏しい。
  2. 投与例:下記①②③合わせて1日1回1〜2時間でdiv
    L-AMB 2.5〜5mg/kg(用量はFN 2.5mg/kg、最大5mg/kg、クリプトコックス髄膜炎6mg/kg)
    注射用水(L-AMB 50mgあたり)12mL
    5%ブドウ糖250mL(L-AMB 2.5mg/kg未満なら100mL可)
  3. 主な副作用は、腎障害、低K血症、低Mg血症、点滴中の発熱・寒気・嘔気
    ただし腎障害で減量規定はない。幹細胞輸注日には投与しない
  4. L-AMBは腎障害を軽減するDDS(Drug Delivery System)の性質を有するが、そのために尿路への移行性が悪く真菌性尿路感染症には適さない。真菌性髄膜炎に治療実績がある。

参考資料

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https://med-journey.com/l_amb/feed/0
日常診療で役立つ医学アプリまとめhttps://med-journey.com/app/https://med-journey.com/app/#respondMon, 08 Jul 2024 07:54:04 +0000https://med-journey.com/?p=2052

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有料

isho.jp(医書.jp)

ケアネット系列の医学書籍アプリです。アプリ自体は無料ですが、電子書籍を購入して読む形ですので有料に分類しました。

良いところ

  • ケアネットで貯めたポイントを書籍購入に充てることができます。
  • 筆者が購入した本では、目次や索引に各ページへのリンクが設定されていました。
  • しおり機能があり、繰り返し見たいページを素早く開くことができます。

惜しいところ

  • 書籍のPDF版のイメージで、タブレットやパソコンなら見やすいですが、スマホへの最適化はされていません(拡大・縮小は可能で、スマホでも読むことはできます)。

m3.com 電子書籍

M2PLUSで、今はm3.com系列の医学書籍アプリです。こちらも医書.jpと同様に、アプリ自体は無料ですが、電子書籍の購入が必要です。

良いところ

  • 購入書籍を横断的に串刺し検索が可能です。
  • すべての本ではないですが、スマホに最適化されている本もあり、読みやすいです。
  • 電子書籍のセット販売がお得です。

惜しいところ

  • 医書.jpのほうが、扱っている電子書籍の量が多いです。
  • 串刺し検索で、書籍の文章中に検索した単語があるのに、ヒットしない時があります。

isho.jpとm3.com電子書籍のどちらを使うかは、自分の読みたい本があるかどうかで判断するのが第一かと考えます。筆者は、もともとM2PLUSを使っていたためm3.com電子書籍を使い始めましたが、欲しい本がisho.jpにしかなかったこともあり、結局両方入れて使っています。

参考

日本心臓病学会のWebサイトで、循環器系のアプリがまとめられています。

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https://med-journey.com/app/feed/0
カスポファンギンの特徴と投与方法https://med-journey.com/cpfg/https://med-journey.com/cpfg/#respondSun, 26 May 2024 08:14:24 +0000https://med-journey.com/?p=1949

カスポファンギン(英語:Caspofungin 略称:CPFG 商品名:カンサイダス)の特徴と投与方法をまとめます。 エキノキャンディン系は主に4種類で、CPFGが世界で最初に承認されました。真菌グラレア・ロゾエンシス( ... ]]>

カスポファンギン(英語:Caspofungin 略称:CPFG 商品名:カンサイダス)の特徴と投与方法をまとめます。

まとめ
  1. CPFGはMCFGと同様に、β-(1,3)-Dグルカン合成を阻害し、カンジダに殺菌的に、アスペルギルスに静菌的に作用する。β-(1,6)-Dグルカンが主体のムーコル、フサリウム、トリコスポロン、クリプトコックス、α-Dグルカンが主体の酵母相の二相性真菌に効果が乏しい。
  2. CPFGはローディングが必要。投与例:
    1日目 CPFG 70mg + 生食250mL 1日1回2時間で点滴
    2日目〜CPFG 50mg + 生食100mL 1日1回1時間で点滴
  3. CNSへの移行は不良。主な副作用は肝障害。
    肝硬変Child-Pugh Bで50mg→35mgに減量あり。腎障害で減量なし。

CPFGの位置付け

最初に開発されたエキノキャンディン系

エキノキャンディン系は主に4種類で、CPFGが世界で最初に承認されました。真菌グラレア・ロゾエンシス(Glarea lozoyensisに由来します。真菌を倒す薬が真菌に由来するのは興味深いです。

2024年現在、日本で使えるのはCPFGとMCFGです。

  • CPFG(カスポファンギン、商品名カンサイダス)
  • MCFG(ミカファンギン、商品名ファンガード)
  • ANFG(アニデュラファンギン) ※日本で未承認
  • RZFG(レザファンギン) ※日本で未承認、週1回投与

MCFGとの比較

CPFGはローディングが必要、投与量はほとんど固定、肝障害で減量あり、薬物相互作用に注意という特徴があります。

CPFGMCFG
日本での認可2012年2002年
ローディング70mg不要
予防投与量50mg
治療投与量50mg100〜150mg
最大投与量300mg
肝障害での減量Child-Pugh Bで35mgなし
腎障害での減量なしなし
相互作用CPFGはTac濃度を下げる
CsAはCPFG濃度を下げる
少ない
薬価50mg:約16000円
70mg:約23000円
50mg:約1500円
100mg:約3000円
150mg:約4500円

上記の表通り、どちらかといえばMCFGのほうが使いやすく安価ですが、MCFGは予防量と治療量が異なる点に注意します。地域によってはMCFG 50mg → 100〜150mg への切り替えが保険上認められにくいこともあるかもしれません。

スペクトラム

CPFGのスペクトラムは、MCFGとほとんど同様です。ただし、CPFGは一部の感受性検査上、偽耐性を示してしまうことがあるという問題点があり、注意します。

CPFGはMCFGと同様に、β-(1,3)-Dグルカン合成を阻害し、カンジダに殺菌的に、アスペルギルスに静菌的に作用します。β-(1,6)-Dグルカンが主体のムーコル、フサリウム、トリコスポロン、クリプトコックス、α-Dグルカンが主体の酵母相の二相性真菌に効果が乏しいです。

FLCZITCZ
VRCZ
PSCZ
ISCZ
MCFG
CPFG
L-AMB
カンジダ    
アスペルギルス    
二相性真菌    

CPFGとカンジダについて、少し細かくみていきます。CPFGは、MCFG同様、カンジダの専門家です。CPFG使用中に、酵母がブレークスルー感染を生じてきたら、耐性カンジダ、トリコスポロン、クリプトコックスを考える必要があります。

出現頻度[%]FLCZITCZVRCZPSCZISCZMCFGCPFG
C. albicans40-60       
C. parapsilosis5-30       
C. tropicalis5-30       
C. krusei2-4       
C. glabrata5-30       
C. lusitaniae0.5-1       
C. kefyr0.5-1       
C. guilliermondii0.5-1       
C. auris<0.01       

続いて、CPFGとアスペルギルスについて確認します。L-AMBが自然耐性のA. terreusを含めてカバーするものの静菌的です。静菌的な機序として、菌糸の伸長抑制作用を示します。したがって、アスペルギルス等の糸状菌感染が明らかな状況であれば、CPFGよりもVRCZ等を優先することが多いです。

FLCZITCZVRCZPSCZISCZMCFGCPFGL-AMB
A. fumigatus        
A. flavus        
A. niger        
A. terreus        

そして希少深在性真菌症についても確認します。CPFGは、MCFG同様、希少深在性真菌症をほとんどカバーしていません

FLCZITCZVRCZPSCZISCZMCFGCPFGL-AMB
ムーコル        
フサリウム        
トリコスポロン        
スケドスポリウム        
クリプトコックス        

スペクトラムの細かい部分についてはミカファンギンの記事をご参照ください。

移行性

MCFGと同様で、眼・中枢神経系には移行しにくいです。眼内炎や真菌性髄膜炎に無効です。

中枢神経系への移行性
良好:FLCZ、VRCZ、ISCZ、L-AMB
不良:ITCZ、PSCZ、MCFG、CPFG

CPFGの投与方法

点滴

MCFGと同じく、点滴のみです。

剤型は50mgと70mgのものがあります。

薬価は50mgで約16000円、70mgで約23000円です。2024年現在CPFGには後発品がないですが、MCFGには後発品があるため、CPFGのほうがMCFGよりも約4倍高額です(MCFG 150mgで約4500円)。

MCFGはローディング不要ですが、CFPGはローディングが必要です。

1日目 CPFG 70mg + 生食250mL 1日1回2時間でdiv
2日目〜CPFG 50mg + 生食100mL 1日1回1時間でdiv

点滴時間について添付文書で1時間以上と規定されています。非臨床試験で投与速度とヒスタミン遊離作用に関連がみられたため、臨床試験で1時間と設定されました。30分での投与は推奨されていません。なお、1日目も1時間でも良いですが、投与量が250mLと多めですので配慮します。

CPFG 70mgの溶媒は100mLではなく250mLが推奨されています。

溶媒の種類は生理食塩液又は乳酸リンゲル液が推奨されています。

CPFGはブドウ糖を含む希釈液中では不安定です。

腎障害・肝障害

腎障害での減量規定はありません。透析で除去されません。

肝硬変Child-Pugh Bで50mg→35mgに減量します。Child-Pugh Cでは推奨されていません。

ただし、この35mgへの減量有無について、肝硬変に由来しないChild-Pughスコア低下時は慎重に検討すべきです。ICUにおいて、非肝硬変で、低アルブミン血症に由来するChild-Pughスコア低下時にCPFGを50mg→35mgに減らすと、有効な曝露量が得られない可能性が指摘されています。Martial LC, Brüggemann RJM, Schouten JA, van Leeuwen HJ, van Zanten AR, de Lange DW, et al. Dose Reduction of Caspofungin in Intensive Care Unit Patients with Child Pugh B Will Result in Suboptimal Exposure. Clin Pharmacokinet. 2016;55: 723–733.

CPFGの副作用・相互作用

副作用

CPFGの副作用として、特に肝障害に注意します。

CPFGの主な副作用の頻度は、嘔気2〜6%、嘔吐2〜3.5%、下痢1〜4%、肝障害1〜15%、腎障害0〜8%、低K血症 70mgで11%、50mgで4%未満、皮疹1〜6%と報告されています。他のエキノキャンディン系と比べると、ヒスタミン誘発反応が少し多いとされています。Chau MM, Daveson K, Alffenaar J-WC, Gwee A, Ho SA, Marriott DJE, et al. Consensus guidelines for optimising antifungal drug delivery and monitoring to avoid toxicity and improve outcomes in patients with haematological malignancy and haemopoietic stem cell transplant recipients, 2021. Intern Med J. 2021;51 Suppl 7: 37–66.

なお、添付文書では重大な副作用としてアナフィラキシー、肝機能障害、中毒性表皮壊死融解症(TEN)、皮膚粘膜眼症候群(SJS)が記載されています。5%以上の副作用として肝機能異常、ALT増加、AST増加、γ-GTP増加が記載されています。

相互作用

CPFGはTac濃度を低下させます。

CsAはCPFG濃度を上昇させます。

CPFGはMCFG同様、CYP450には影響されにくく、アゾール系との相互作用は乏しいです。しかしながら、CPFGは肝取り込みトランスポーターOATP1B1の低親和性基質で、薬物相互作用が問題になります。OATP1B1阻害薬としてシクロスポリンやリファンピシンが代表的です。

添付文書で注意が促されているように、エファビレンツ、ネビラピン、リファンピシン、デキサメタゾン、フェニトイン、カルバマゼピンとCPFGを併用する場合、CFPG 50mgではなく、70mgの1日1回投与を考慮します。リファンピシンに関しては、リファンピシン単回投与の併用ではCPFGのAUCが増加する一方で、リファンピシン定常状態ではむしろCPFGトラフ濃度が低下することが実験的に確認されています。

CPFGのエビデンス

持続性発熱性好中球減少症に対するCPFG vs L-AMB(NEJM 2004)

Merck社のサポートのもと欧米100を超える施設で行われた、持続性発熱性好中球減少症に対するCPFG vs L-AMBの、ランダム化比較試験の結果が、2004年NEJMで報告されています。

総合効果でL-AMBに対するCPFGの非劣性が示され、安全性はCPFGのほうが優れていました。

CPFGL-AMB
MITT解析対象数556539
Primary Outcome
総合効果
33.9%33.7%
真菌感染例での有効率51.9%25.9%
治療終了後7日間生存率92.6%89.2%
治療中断率10.3%14.5%
ブレイクスルー
真菌感染なし
94.8%95.5%
好中球減少下での解熱41.2%41.4%
Safety
腎障害
2.6%11.5%
注入関連反応35.1%51.6%
Walsh TJ, Teppler H, Donowitz GR, Maertens JA, Baden LR, Dmoszynska A, et al. Caspofungin versus liposomal amphotericin B for empirical antifungal therapy in patients with persistent fever and neutropenia. N Engl J Med. 2004;351: 1391–1402.

上記の臨床試験を含む、持続性発熱性好中球減少症に対するCPFG4報・MCFG2報の臨床試験をまとめたメタアナリシスがあり、エキノキャンディン系と非エキノキャンディン系では総合的有効率は同様であるものの、エキノキャンディン系のほうが死亡率が低く、有害事象も少ないと報告されています。Yamashita C, Takesue Y, Matsumoto K, Ikegame K, Enoki Y, Uchino M, et al. Echinocandins versus non-echinocandins for empirical antifungal therapy in patients with hematological disease with febrile neutropenia: A systematic review and meta-analysis. J Infect Chemother. 2020;26: 596–603.

侵襲性カンジダ症に対するCPFG vs AMB(NEJM 2002)

持続性発熱性好中球減少症に対するCPFGの臨床試験は対称群がL-AMBでしたが、侵襲性カンジダ症に対するCPFGの臨床試験での対称群はAMBでした。効果で非劣性、安全面でCPFGが優れることが示されています。

当時、カンジダ血症へのFLCZの有効性が示された時期でもありますが、非Albicansのカンジダに対してはFLCZは感受性が低下します。そんな中、ポリエン・アゾールに次ぐ、カンジダへの抗真菌薬としてCPFGが期待通りの結果を出した試験でした。

CPFGAMB
MITT解析対象数109115
Primary Outcome
総合効果
73.4%61.7%
毒性による
抗真菌薬中止
2.8%16.5%
6〜8週後の再発6.4%7.0%
Safety
臨床症状の副作用
28.9%58.4%
検査値異常24.3%54.0%
Mora-Duarte J, Betts R, Rotstein C, Colombo AL, Thompson-Moya L, Smietana J, et al. Comparison of caspofungin and amphotericin B for invasive candidiasis. N Engl J Med. 2002;347: 2020–2029.

まとめ

まとめ
  1. CPFGはMCFGと同様に、β-(1,3)-Dグルカン合成を阻害し、カンジダに殺菌的に、アスペルギルスに静菌的に作用する。β-(1,6)-Dグルカンが主体のムーコル、フサリウム、トリコスポロン、クリプトコックス、α-Dグルカンが主体の酵母相の二相性真菌に効果が乏しい。
  2. CPFGはローディングが必要。投与例:
    1日目 CPFG 70mg + 生食250mL 1日1回2時間で点滴
    2日目〜CPFG 50mg + 生食100mL 1日1回1時間で点滴
  3. CNSへの移行は不良。主な副作用は肝障害。
    肝硬変Child-Pugh Bで50mg→35mgに減量あり。腎障害で減量なし。

参考資料

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https://med-journey.com/cpfg/feed/0
日本の医学情報リッチな病院ウェブサイトまとめhttps://med-journey.com/useful/https://med-journey.com/useful/#respondWed, 08 May 2024 09:37:44 +0000https://med-journey.com/?p=1874

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参考資料

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ミカファンギン(英語:Micafungin 略称:MCFG 商品名:ファンガード)の特徴と投与方法をまとめます。

まとめ
  1. MCFGはβ-(1,3)-Dグルカン合成を阻害し、カンジダに殺菌的に、アスペルギルスに静菌的に作用する。β-(1,6)-Dグルカンが主体のムーコル、フサリウム、トリコスポロン、クリプトコックス、α-Dグルカンが主体の酵母相の二相性真菌に効果が乏しい。
  2. 予防の MCFG 50mg + 生食100mL 1日1回30分でdiv
    治療の例 MCFG 100〜150mg + 生食100mL 1日1回1時間でdiv
  3. CNSへの移行性は不良。主な副作用は肝障害。肝障害・腎障害での減量なし。

MCFGの位置付け

エキノキャンディン系の作用機序

アゾール、ポリエン、フルシトシンに次ぐ4番目の抗真菌薬として登場したのが、エキノキャンディン系です。

エキノキャンディン系は真菌細胞壁のβDグルカン合成を阻害します。βDグルカン合成酵素のサブユニットFks1pに非競合的に結合して、その酵素を阻害します。カンジダに対して殺菌的に、アスペルギルスに対して静菌的に作用します。Szymański M, Chmielewska S, Czyżewska U, Malinowska M, Tylicki A. Echinocandins – structure, mechanism of action and use in antifungal therapy. J Enzyme Inhib Med Chem. 2022;37: 876–894.

非競合的阻害剤で、濃度依存性があり、臨床ではMCFG 50〜300mgまで調節(※ CPFGは肝障害や相互作用以外で原則調節なし)されます。アゾールやポリエンとは作用機序が異なるため、相加・相乗効果を期待して併用療法も研究されています。Chandrasekar PH, Sobel JD. Micafungin: a new echinocandin. Clin Infect Dis. 2006;42: 1171–1178.

エキノキャンディン系が阻害するのはβDグルカンの中でも、β-(1,3)-Dグルカンです。したがって、主にβ-(1,6)-Dグルカンで真菌細胞壁を構成しているムーコル、フサリウム、トリコスポロン、クリプトコックス等には効果が乏しいです。また二相性真菌は糸状菌相ではβ-(1,3)-Dグルカンが豊富ですが、二相性真菌の酵母相はα-Dグルカンが豊富で効果が乏しいです。

エキノキャンディン系投与中の酵母様真菌のブレイクスルーでは、耐性カンジダに加えて、トリコスポロンが重要です。

エキノキャンディン系の種類

主なエキノキャンディン系は下記の4種類です。

  • CPFG(カスポファンギン、商品名カンサイダス)
  • MCFG(ミカファンギン、商品名ファンガード)
  • ANFG(アニデュラファンギン) ※日本で未承認
  • RZFG(レザファンギン) ※日本で未承認、週1回投与

日本では2002年にMCFGが、2012年にCPFGが認可されました。アメリカでは逆にCPFGのほうが先に認可されており、歴史的には先にCPFGが開発され、その後2番目のエキノキャンディン系としてMCFGが開発された流れです。

カンジダの専門家

MCFGは主にカンジダをカバーします。アゾール系より副作用・相互作用が少ないため、カンジダを中心にカバーしたい時に頻用されています。アスペルギルスに関してはVRCZが第一選択です。酵母と糸状菌の両形態をとる二相性真菌に関して、特に酵母相の時にMCFGは無効です。

MCFGはカンジダの専門家です。

FLCZITCZ
VRCZ
PSCZ
ISCZ
MCFG
CPFG
L-AMB
カンジダ    
アスペルギルス    
二相性真菌    

MCFGのカンジダへのスペクトラムについて、詳しく見ていきます。

C. albicans、C. tropicalis、C. glabrata 等に対して、CPFGよりもMCFGのほうがin vitroでの阻害活性が5〜10倍増加するという報告があります。Ostrosky-Zeichner L, Rex JH, Pappas PG, Hamill RJ, Larsen RA, Horowitz HW, et al. Antifungal susceptibility survey of 2,000 bloodstream Candida isolates in the United States. Antimicrob Agents Chemother. 2003;47: 3149–3154.

C. parapsilosis へのMICがやや高めであり、臨床的意義は明確ではありませんが、注意します。Pfaller MA, Boyken L, Hollis RJ, Kroeger J, Messer SA, Tendolkar S, et al. In vitro susceptibility of invasive isolates of Candida spp. to anidulafungin, caspofungin, and micafungin: six years of global surveillance. J Clin Microbiol. 2008;46: 150–156.

C. glabrata では、FKS変異によるエキノキャンディン系耐性株に注意します。添付文書でも注意が促されています。

C. guilliermondii では、耐性菌が少し多く、下記の表では△と記載しました。

C. auris について、2018年のメタアナリシス及びシステマティック・レビューで耐性率は低いと報告されており、下記の表では◯と記載しました。Osei Sekyere J. Candida auris: A systematic review and meta-analysis of current updates on an emerging multidrug-resistant pathogen. Microbiologyopen. 2018;7: e00578.

しかしながら、FKS変異によるMCFG耐性の報告があり、注意します。Chow NA, Muñoz JF, Gade L, Berkow EL, Li X, Welsh RM, et al. Tracing the Evolutionary History and Global Expansion of Candida auris Using Population Genomic Analyses. MBio. 2020;11. doi:10.1128/mBio.03364-19

また、C. auris に対して、MCFG・CPFG・anidulafungin(ANFG)よりもrezafungin(RZFG)が優れる可能性も指摘されています。Kovács R, Tóth Z, Locke JB, Forgács L, Kardos G, Nagy F, et al. Comparison of In Vitro Killing Activity of Rezafungin, Anidulafungin, Caspofungin, and Micafungin against Four Candida auris Clades in RPMI-1640 in the Absence and Presence of Human Serum. Microorganisms. 2021;9. doi:10.3390/microorganisms9040863

出現頻度[%]FLCZITCZVRCZPSCZISCZMCFGCPFG
C. albicans40-60       
C. parapsilosis5-30       
C. tropicalis5-30       
C. krusei2-4       
C. glabrata5-30       
C. lusitaniae0.5-1       
C. kefyr0.5-1       
C. guilliermondii0.5-1       
C. auris<0.01       

アスペルギルスに対しては、L-AMBが自然耐性A. terreusを含めてカバーするものの静菌的です。

FLCZITCZVRCZPSCZISCZMCFGCPFGL-AMB
A. fumigatus        
A. flavus        
A. niger        
A. terreus        

MCFGは希少深在性真菌症にほとんど無効です。MCFGは頻用されていますが、真菌へのスペクトラムは狭い抗真菌薬である点に注意します。MCFG投与中のブレイクスルー真菌感染では、VRCZへのクラススイッチが合理的ですが、その場合ムーコルをカバーできず、一方でPSCZ・ISCZ・L-AMBへのクラススイッチではフサリウム等へのカバーが甘くなります。

FLCZITCZVRCZPSCZISCZMCFGCPFGL-AMB
ムーコル        
フサリウム        
トリコスポロン        
スケドスポリウム        
クリプトコックス        

移行性

MCFGは眼や中枢神経系への移行性が悪いです。眼内炎や真菌性髄膜炎に無効です。

中枢神経系への移行性
良好:FLCZ、VRCZ、ISCZ、L-AMB
不良:ITCZ、PSCZ、MCFG、CPFG

MCFGの投与方法

点滴

経口投与ではほとんど吸収されないため、剤型は点滴のみです。

25mg, 50mg, 75mgの3種類があります。

薬価は、25mgの先発品が約2000円、後発品が約1000円、50mgの先発品が約3000円、後発品が約1500円、75mgの先発品が約4500円、後発品が約2000〜2500円です。後発品は先発品のおおよそ半額となっています。現在では後発品を採用している病院が多いでしょうから、50mgで約1500円、150mgで約4500円かかると覚えておくと良さそうです。

CPFGはローディングが必要ですが、MCFGは不要です。

予防で MCFG 50mg + 生食100mL 1日1回30分でdiv
治療で MCFG 100〜150mg + 生食100mL 1日1回1時間でdiv

溶解液は5%ブドウ糖も可です。

速度に関して、75mg以下は30分以上、75mg以上は1時間以上の規定があります。半減期は11〜17時間で、1日1回投与で済みます。

投与量に関して、予防で1mg/kgを超えないこと、治療で6mg/kgを超えないことという規定がありますので、体重50kg以下では配慮します。

その他、配合直後に濁りが生じたり、力価が低下したりする薬剤があり、注意します。調製後〜点滴終了まで6時間以上かかる場合には遮光しておきます。TDMは不要です。

腎障害・肝障害

MCFGは腎障害・肝障害での用量調節は規定されていません。

対照的にCPFGは肝障害で用量調節があります(Child-Pugh Bで50→35mgへ)。

MCFGの副作用・相互作用

副作用

エキノキャンディン系がターゲットとするβDグルカンはヒトの細胞には存在せず、副作用は少ないです。

最も注意するのは肝障害ですが、VRCZより少なく、FLCZやL-AMBと同じくらいの頻度です。高Bil血症2.9〜13.3%、AST・ALT上昇0.7〜6.8%と報告されています。Chau MM, Daveson K, Alffenaar J-WC, Gwee A, Ho SA, Marriott DJE, et al. Consensus guidelines for optimising antifungal drug delivery and monitoring to avoid toxicity and improve outcomes in patients with haematological malignancy and haemopoietic stem cell transplant recipients, 2021. Intern Med J. 2021;51 Suppl 7: 37–66.

消化器症状も少なく、嘔気2.4〜5.8%、嘔吐2.8〜5.1%、下痢2.1〜5.8%です。低K血症は0.4〜6.8%に留まっています。IRAEは0〜17%と報告によって幅がありますが、総じて1時間かけると少なくなります。

相互作用

添付文書ではシロリムスと併用注意と記載されています。アゾール系と比べると相互作用はとても少ないです。

CPFGはタクロリムスの濃度を下げることが知られていますが、MCFGはタクロリムス濃度への影響は乏しいです。

シクロスポリンはCPFGの濃度を上げることが知られていますが、シクロスポリンのMCFG濃度への影響は乏しいです。

MCFGCPFG
ローディング投与なしあり
腎障害での減量なしなし
肝障害での減量なしあり
相互作用少ないCPFGはTac濃度を下げる
CsAはCPFG濃度を上げる

MCFGの投与量とエビデンス

50mg

MCFG 50mgは予防投与量です。

造血幹細胞移植患者882名の好中球減少時に、MCFG 50mgとFLCZ 400mgを比較した試験があり、MCFG 50mgのほうが真菌感染を防ぎました。この試験では抗真菌薬予防投与期間は、生着後5日以内あるいは移植後42日目まででした。

MCFGFLCZ
投与症例数425名457名
用量50mg400mg
Primary Endpoint
侵襲性真菌感染症の
予防成功率
80.0%73.5%
侵襲性カンジダ症4例2例
侵襲性アスペルギルス症1例7例
ムーコル症1例0例
フサリウム症2例1例
Safety
肝障害
5.2%6.8%
van Burik J-AH, Ratanatharathorn V, Stepan DE, Miller CB, Lipton JH, Vesole DH, et al. Micafungin versus fluconazole for prophylaxis against invasive fungal infections during neutropenia in patients undergoing hematopoietic stem cell transplantation. Clin Infect Dis. 2004;39: 1407–1416.

100〜150mg

MCFG 100〜150mgは治療投与量です。

1つの考え方として、カンジダをターゲットとする時に100mgを、アスペルギルスをターゲットとする時に150mgを用いるというものがありますが、MCFGの効果は用量依存性がある点に注意します。

HIV陽性患者における、内視鏡と培養で証明された食道カンジダ症に対して、MCFG 50mg、100mg、150mgを14〜21日間投与した用量反応試験では、内視鏡的治癒率はそれぞれ68.8%、77.4%、89.8%で用量依存性がありました。 MCFG 100〜150 mgによる内視鏡的治癒率(83.5%)は、FLCZ 200mgによる内視鏡的治癒率(86.7%)と同等でした。

MCFG 50mgMCFG 100mgMCFG 150mgFLCZ 200mg
内視鏡的治癒率68.8%77.4%89.8%86.7%
de Wet N, Llanos-Cuentas A, Suleiman J, Baraldi E, Krantz EF, Della Negra M, et al. A randomized, double-blind, parallel-group, dose-response study of micafungin compared with fluconazole for the treatment of esophageal candidiasis in HIV-positive patients. Clin Infec

300mg

安全性について東大血液腫瘍内科から後方視的観察研究が報告されており、副作用は300mgと150mgで同等でした。具体的な副作用としては肝障害が多く、他に高血圧と下痢も多かったとのことです。

300mg150mg
症例数26名58名
副作用72%73%
肝障害48%58%
Yamazaki S, Nakamura F, Yoshimi A, Ichikawa M, Nannya Y, Kurokawa M. Safety of high-dose micafungin for patients with hematological diseases. Leuk Lymphoma. 2014;55: 2572–2576.

CPFGはシクロスポリンとの相互作用がありますが、MCFG300mgはシクロスポリンとの相互作用は問題ないと報告されています。Inoue Y, Saito T, Ogawa K, Nishio Y, Kosugi S, Suzuki Y, Kato M, Sakai T, Takahashi M, Miura I. Drug interactions between micafungin at high doses and cyclosporine A in febrile neutropenia patients after allogeneic hematopoietic stem cell transplantation. Int J Clin Pharmacol Ther. 2012 Nov;50(11):831-7. 

まとめ

まとめ
  1. MCFGはβ-(1,3)-Dグルカン合成を阻害し、カンジダに殺菌的に、アスペルギルスに静菌的に作用する。β-(1,6)-Dグルカンが主体のムーコル、フサリウム、トリコスポロン、クリプトコックス、α-Dグルカンが主体の酵母相の二相性真菌に効果が乏しい。
  2. 予防の MCFG 50mg + 生食100mL 1日1回30分でdiv
    治療の例 MCFG 100〜150mg + 生食100mL 1日1回1時間でdiv
  3. CNSへの移行性は不良。主な副作用は肝障害。肝障害・腎障害での減量なし。

参考資料

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https://med-journey.com/mcfg/feed/0
検索にかかる時間を1秒短くするツール【PopClip】https://med-journey.com/popclip/https://med-journey.com/popclip/#respondThu, 21 Mar 2024 13:06:44 +0000https://med-journey.com/?p=1551

Macで検索にかかる時間を1秒短くするツールPopClipを紹介します。1秒といえども、塵も積もれば山となります。 PopClipは、テキスト選択で可能な動作を増やすMacのアプリです。 マウスでテキストを選択すると P ... ]]>

UpToDate、DynaMed、PubMed、ClinicalKey、ScienceDirect等、検索したいWebサイトが沢山あって、毎回コピー&ペーストしたり、開いたりするのが地味に面倒なんだよね…

PopClipを使えば、選択するだけで一瞬で検索できるよ!

Macで検索にかかる時間を1秒短くするツールPopClipを紹介します。1秒といえども、塵も積もれば山となります。

PopClip

PopClipとは?

PopClipは、テキスト選択で可能な動作を増やすMacのアプリです。

マウスでテキストを選択すると PopClip がポップアップ表示され、カスタマイズできる便利なアクションボタンの一覧が表示されます。 基本的なアクションには、コピーアンドペースト、辞書検索、ウェブ検索が含まれます。 スペルミスのある単語を選択すると、PopClip が修正候補を提案します。 URLを選択すると、PopClip から開いたり、短縮したり、リーディングリストに追加したりできます。PopClip は、多くの人気アプリやウェブサイトと連携可能です。

「PopClip」をMac App Storeで 2024/03/18 accessed

使用イメージは下記のような感じです。テキストを選択すると、PopClipがポップアップ表示され、Google検索・カット・コピー・ペースト等のアクションを選択できます。

上図のGoogle検索・カット・コピー・ペーストの右横は、画像検索・地図検索・YouTube検索・PubMed検索で、PopClipの拡張機能です。さらに右横は、UpToDate検索・DynaMed検索・ClinicalKey検索・Connected Papers検索・ScienceDirect検索・医学放浪記検索で、PopMakerで自作した拡張機能です。ニーズに合わせて自由に設定できます。

コストは買い切り型で3000円(2024年3月18日現在)です。価格は変動しています。

制作者はイギリス・レスター出身の個人デベロッパのNick Mooreさんで、10年以上前にコピー&ペーストや切り取り等を簡単にするためにPopClipを開発されました。ユーザーからのリクエストに応じて、拡張機能をどんどん追加されています。

PopClipの拡張機能

PopClipの拡張機能は下記から追加できます。100種類以上あり、PubMed検索もあります。

PopMaker

PopMakerとは?

PopMakerはPopClip用の拡張機能を自作できるアプリです。下記からPopMakerをインストールできます。

UpToDate検索等の作り方

PopMakerの画面を示します。

Author, Extension nameに分かりやすい名前をつけます。Descriptionの入力は任意です。

Menu titleが重要で、PopClipのポップアップに表示される文字です。自分にとって分かりやすい文字にしましょう。

Search URLの取得方法ですが、調べたいWebサイトで query を検索してみるとよいです。その時に表示されたURLの中にqueryを探します。そして {query} のように括弧をつけます。これでSearch URLの出来上がりです。

以下にSearch URLの例を示します。2024年3月現在のものです。将来的に各Webサイトの仕様変更があれば、URLも変わる可能性があります。

Search URLの例
UpToDate
https://www.uptodate.com/contents/search?search={query}
DynaMed
https://www.dynamed.com/results?q={query}
ClinicalKey
https://www.clinicalkey.jp/#!/search/{query}
Connected Papers
https://www.connectedpapers.com/search?q={query}
ScienceDirect
https://www.sciencedirect.com/search?qs={query}
医学放浪記
https://med-journey.com/?s={query}

最後に

PopClipは、Macの神アプリの一つとして知られているツールです。私自身、最初はその便利さがいまいち理解できなかったのですが、実際に使ってみると、様々な検索がとても楽にできるようになりました。実際には数秒の短縮なのだと思いますが、体感速度ではとても速く検索できるように感じます。

何か疑問に思ったら、まず検索するのはGoogle等かと思います。次にUpToDate等を検索しようと思うこともあるでしょうが、その時にUpToDateの最初のページをブックマークから開いて、そして調べたい単語を打ち込んで、とやっていると手間がかかります。PopClipを入れておくと、検索結果のページに一気にたどり着けるようになりますので、検索速度が上がり、UpToDate等を使う機会自体も増えると思います。

さらに、私自身の環境では、LancetはClinicalKeyで、BloodはScienceDirect上で読むことになります。PopClipを使うと、PubMedで論文を調べた時に、PubMedからClinicalKey、PubMedからScienceDirectへのアクセス簡単になります。論文タイトルを選択して、PopClipのポップアップからCやSDを選ぶだけで飛べます。

ぜひ、様々な拡張機能とともに、PopClipとPopMakerを活用してみてください!

参考資料

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https://med-journey.com/popclip/feed/0
イサブコナゾールの特徴と投与方法https://med-journey.com/iscz/https://med-journey.com/iscz/#respondFri, 15 Mar 2024 10:22:10 +0000https://med-journey.com/?p=1553

2023年発売の新規抗真菌薬 イサブコナゾール(英語:Isavuconazole 略称:ISCZ 商品名:クレセンバ)の特徴と投与方法をまとめます。 ISCZの適応はアスペルギルス症・ムーコル症・クリプトコックス症です。 ... ]]>

2023年発売の新規抗真菌薬 イサブコナゾール(英語:Isavuconazole 略称:ISCZ 商品名:クレセンバ)の特徴と投与方法をまとめます。

まとめ
  1. ISCZの適応はアスペルギルス・ムーコル・クリプトコックス
  2. ISCZは2日間のローディングが必要。食後も空腹時も可。
    1〜2日目 クレセンバ(100mg)6T/3x
    3日目〜 クレセンバ(100mg)2T/1x
  3. ISCZ点滴は、PSCZと異なり、SBECDを含まず腎臓に優しい。末梢投与可。
    1〜2日目 クレセンバ200mg + 注射用水5mL + 生食250mL/1時間以上 q8h
    3日目〜 クレセンバ200mg + 注射用水5mL + 生食250mL/1時間以上 q24h
  4. 副作用はVRCZより少ないが、消化器症状(嘔気 10〜27.6%、嘔吐 15.5〜27%、下痢 15.5〜32%)、肝障害 8.6〜9%、低K血症 17.5〜18.2%、頭痛 16%、QT短縮、infusion-related reactionsに注意する。
  5. CYP3Aを中等度に阻害する(FLCZと同等)。中枢神経系に移行する。

ISCZの位置付け

カンジダ・アスペルギルスは概ねカバー

ISCZの適応はアスペルギルス症・ムーコル症・クリプトコックス症です。

ISCZは、エキノキャンディン系CPFGとの比較で非劣性を証明できなかったためカンジダへの適応はありませんが、概ねカバーしています。

出現頻度[%]FLCZITCZVRCZPSCZISCZ
C. albicans40-60     
C. parapsilosis5-30     
C. tropicalis5-30     
C. krusei2-4     
C. glabrata5-30     
C. lusitaniae0.5-1     
C. kefyr0.5-1     
C. guilliermondii0.5-1     
C. auris<0.01     

C. aurisへの感受性がないとする報告に基づいて、上の表ではXと記載しました。Gamal A, Long L, Herrada J, Aram J, McCormick TS, Ghannoum MA. Efficacy of Voriconazole, Isavuconazole, Fluconazole, and Anidulafungin in the Treatment of Emerging Candida auris Using an Immunocompromised Murine Model of Disseminated Candidiasis. Antimicrob Agents Chemother. 2021;65: e0054921.

一方で、C. aurisに対してエキノキャンディン系やコリスチン等とISCZの併用が相乗効果があるとする報告も散見します。

アスペルギルス症に適応があります。ただし、他のアゾール系にも言えることではありますが、報告されているデータを見る限りA. niger の感受性にはやや注意したほうが良さそうです。

また、ISCZのA. fumigatusA. terreusに対するMICが高いこともあり、注意を要します。Jørgensen KM, Astvad KMT, Hare RK, Arendrup MC. EUCAST Susceptibility Testing of Isavuconazole: MIC Data for Contemporary Clinical Mold and Yeast Isolates. Antimicrob Agents Chemother. 2019;63. doi:10.1128/AAC.00073-19

FLCZITCZVRCZPSCZISCZ
A. fumigatus     
A. flavus     
A. niger     
A. terreus     

ムーコルに適応あり

ISCZはムーコル症に適応がありますが、第一選択はL-AMBです。

ムーコル症の治療で、L-AMBから内服に変更する時にPSCZとともに候補になります。PSCZは中枢神経系にほとんど移行しませんが、ISCZは中枢神経系に移行する点も強みです。また点滴治療を必要とし、かつ腎障害がある時には、L-AMBやPSCZよりもISCZが好まれます。

クリプトコックス症に対するISCZの治療成績は良好です。

FLCZITCZVRCZPSCZISCZMCFGL-AMB
ムーコル       
フサリウム       
トリコスポロン       
スケドスポリウム       
クリプトコックス       

TDM・吸収率・移行性

ISCZは保険診療でTDMは不可能です。ほぼ線形の薬物動態で、代謝に個人差の大きいCYP2C9・2C19・2D6の関与が乏しく、血中濃度と有効性や安全性に明確な相関がないことからTDMは現時点では推奨もされていません。またCYP3A4の阻害は中等度で、ITCZ・VRCZ・PSCZのように高度ではなく、その観点でも比較的安全性は高いと考えられています。

TDMが可能 … VRCZ
TDMが不可能 … FLCZ, ITCZ, PSCZ, ISCZ

吸収率について、空腹時で98%と良好で、高脂肪食後でも大きな低下なく、食事と関係なく内服可能です。

移行性について、中枢神経系に良好に移行します。髄膜炎や脳膿瘍への治療実績が報告されています。ただし治療成功率は高くは報告されていない点に留意します。

脳に移行する … FLCZ, VRCZ, ISCZ
脳に移行しない … ITCZ, PSCZ

ISCZの投与方法

内服

クレセンバカプセル100mg、薬価は約4500円です。

カプセルのサイズが24.2 x 7.7 mmと大きいです。下を向いて飲むと、少し飲みやすくなるようです。2024年5月現在、40mgの小サイズを申請中です。

吸収は良好で、食事と関係なく投与できます。

ローディングをISCZは2日間行います。VRCZやPSCZは1日間です。

通常、成人にはイサブコナゾールとして1回200mgを約8時間おきに6回経口投与する。6回目投与の12〜24時間経過後、イサブコナゾールとして1回200mgを1日1回経口投与する。

クレセンバカプセル100mg 添付文書

点滴

クレセンバ点滴静注用200mg、薬価は約28000円です。内服の3倍です。

用量は内服と同様です。注射用水5mLが必要、生食or5%ブドウ糖250mLに希釈して、1時間以上で点滴するように規定されています。

ローディングをISCZは2日間行います。F-FLCZは2日間、VRCZやPSCZは1日間です。

通常、成人にはイサブコナゾールとして1回200mgを約8時間おきに6回、1時間以上かけて点滴静注する。6回目投与の12~24時間経過後、イサブコナゾールとして1回200mgを1日1回、1時間以上かけて点滴静注する。

クレセンバ点滴静注用200mg 添付文書

腎障害・肝障害

腎障害や肝障害での減量規定はありません。ただし、濃度上昇は見られ、添付文書に詳細が記載されていて参考になります。血液透析で除去されません。

ISCZの副作用・相互作用

ISCZの副作用

ISCZの最も多い副作用は消化器症状です。嘔気 10〜27.6%、嘔吐 15.5〜27%、下痢 15.5〜32% Chau MM, Daveson K, Alffenaar J-WC, Gwee A, Ho SA, Marriott DJE, et al. Consensus guidelines for optimising antifungal drug delivery and monitoring to avoid toxicity and improve outcomes in patients with haematological malignancy and haemopoietic stem cell transplant recipients, 2021. Intern Med J. 2021;51 Suppl 7: 37–66.

肝障害 8.6〜9% にも注意しますが、VRCZより少ないです。

その他、低K血症 17.5〜18.2%、頭痛 16% にも注意します。

QT短縮が報告されていますが、その病的意義は明らかではありません。

点滴の際にはinfusion-related reactionsが報告されていますので、250mLで溶かし、1時間以上かけるようにします。

ISCZの相互作用

ISCZはCYP3A4とCYP3A5で代謝され、便中排泄と尿中排泄が半々です。ISCZはCYP3Aを中等度に阻害し、CYP2B6を誘導します。トランスポーターについて、P-gp・OCT2・MATE1を阻害します。グルクロン酸抱合について、UGTを阻害します。

Tac濃度上昇については、FLCZと同等で、PSCZの半分くらいです。したがって、Tac持続から内服への切り替え時は、FLCZならTacを4倍に、PSCZなら2倍くらいにするかと思いますが、ISCZはFLCZ相当が目安になりそうです。2021年のコンセンサスガイドラインでも CYP3A4の阻害の程度について、FLCZとISCZは同等と評価されています。Chau MM, Daveson K, Alffenaar J-WC, Gwee A, Ho SA, Marriott DJE, et al. Consensus guidelines for optimising antifungal drug delivery and monitoring to avoid toxicity and improve outcomes in patients with haematological malignancy and haemopoietic stem cell transplant recipients, 2021. Intern Med J. 2021;51 Suppl 7: 37–66.

ISCZのエビデンス

侵襲性糸状菌感染症に対して、ISCZはVRCZに非劣性(Lancet 2016)

侵襲性糸状菌感染症に対して、ISCZとVRCZを比較したSECURE試験が、ISCZのPIVOT studyです。糸状菌として一部ムーコルやフサリウムも含まれていましたが、ほとんどアスペルギルスが占めていました。

ISCZVRCZ
介入ISCZ 200mg を1〜2日目は1日3回点滴、3日目から200mg 1日1回点滴あるいは内服VRCZ 1日目は6mg/kgを1日2回点滴、2日目から4mg/kgを1日2回点滴、3日目から4mg/kgを1日2回点滴あるいは200mgを1日2回内服
Primary Endpoint
Day42の全原因死亡率
19%20%
Safety
消化器症状
68%69%
Safety
感染症
59%61%
Safety
肝障害
9%16%
Sefety
視覚障害
15%27%
Safety
皮疹
33%42%
Maertens JA, Raad II, Marr KA, Patterson TF, Kontoyiannis DP, Cornely OA, et al. Isavuconazole versus voriconazole for primary treatment of invasive mould disease caused by Aspergillus and other filamentous fungi (SECURE): a phase 3, randomised-controlled, non-inferiority trial. Lancet. 2016;387: 760–769.

ムーコル症に対して、ISCZはAMBと同等(Lancet Infect Dis 2016)

単アームのVITAL試験もISCZのエビデンス確立に一役を担いました。ムーコル症について、比較対象としてFungiScopeに登録されたAMBでの治療例と比較され、ISCZ群で42日全原因死亡率は33%で、マッチさせたAMB群での39%と同等でした。Marty FM, Ostrosky-Zeichner L, Cornely OA, Mullane KM, Perfect JR, Thompson GR 3rd, et al. Isavuconazole treatment for mucormycosis: a single-arm open-label trial and case-control analysis. Lancet Infect Dis. 2016;16: 828–837.

ISCZの予防投与では、VRCZやPSCZよりも侵襲性肺アスペルギルス症が増加(CID 2020)

オレゴン大学で2016〜2018年に、血液悪性腫瘍および移植後症例で、ISCZ・VRCZ・PSCZの予防投与を後方視的に比較した報告によると、ISCZ予防投与群で侵襲性真菌感染症、特に侵襲性アスペルギルス症の発生が多かったと報告されています。

ISCZVRCZPSCZ
侵襲性真菌感染症10.2%1.1%4.1%
侵襲性肺アスペルギルス症6.8%0%1.3%
Fontana L, Perlin DS, Zhao Y, Noble BN, Lewis JS, Strasfeld L, et al. Isavuconazole Prophylaxis in Patients With Hematologic Malignancies and Hematopoietic Cell Transplant Recipients. Clin Infect Dis. 2020;70: 723–730.

まとめ

まとめ
  1. ISCZの適応はアスペルギルス・ムーコル・クリプトコックス
  2. ISCZは2日間のローディングが必要。食後も空腹時も可。
    1〜2日目 クレセンバ(100mg)6T/3x
    3日目〜 クレセンバ(100mg)2T/1x
  3. ISCZ点滴は、PSCZと異なり、SBECDを含まず腎臓に優しい。末梢投与可。
    1〜2日目 クレセンバ200mg + 注射用水5mL + 生食250mL/1時間以上 q8h
    3日目〜 クレセンバ200mg + 注射用水5mL + 生食250mL/1時間以上 q24h
  4. 副作用はVRCZより少ないが、消化器症状(嘔気 10〜27.6%、嘔吐 15.5〜27%、下痢 15.5〜32%)、肝障害 8.6〜9%、低K血症 17.5〜18.2%、頭痛 16%、QT短縮、infusion-related reactionsに注意する。
  5. CYP3Aを中等度に阻害する(FLCZと同等)。中枢神経系に移行する。

参考資料

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https://med-journey.com/iscz/feed/0
医療面接で役立つ語呂合わせまとめhttps://med-journey.com/interview/https://med-journey.com/interview/#respondThu, 07 Mar 2024 09:54:00 +0000https://med-journey.com/?p=1565

OPQRSTをはじめ、医療面接で役立つ語呂合わせをまとめます。 Onsetはsudden, acute, subacute, chronicの4つの発症速度とprogressive, continuous, episod ... ]]>

OPQRSTをはじめ、医療面接で役立つ語呂合わせをまとめます。

主訴に関する語呂合わせ

OPQRST

O … onset 発症様式

P … provocative・palliative 増悪・寛解因子

Q … quality・quantity 質・量

R … region・radiation 部位・放散

S … symptoms 随伴症状

T … time course 時系列

Onsetはsudden, acute, subacute, chronicの4つの発症速度とprogressive, continuous, episodic, recurrentの4つの進行要素を考えると良いかもしれません。

特にsuddenな発症様式を取るものとして、TROPが知られています。

T … tear・torsion 裂ける・捻れる

R … rupture 破れる

O … obstruction 詰まる

P … perforation・penetration 孔が開く・貫く

OPQRSTにUとVを加える派生形もあります。

U … understanding 理解

V … value 価値

これは「かきかえ」に似ていますね。

か … 感情

き … 期待

か … 解釈

え … 影響

「かきかえ」は英語圏ではFIFE(横笛)とまとめられています。

F … feelings 気持ち

I … ideas 病気への考え

F … functions 生活機能への影響

E … expectations 医療への期待

COMPLAINTS

OPQRSTは有名ですが、医療面接での順序と異なるところが難点です。その点をおおむね改良したのがCOMPLAINTSです。COM・PL・AIN・TSと4つに分けると理解しやすいです。病歴.comと言われるように、特に最初のCOMが最重要です。

C … chief complaints 主訴(何が)

O … onset 発症様式(いつ)

M … magnitude 重症度(どれくらい)

 

P … pattern 性質(どんな)

L … location 部位(どこ)

 

A … associate 随伴症状(=)

I … improve 寛解因子(+)

N … negative 増悪因子(−)

 

T … treatments 受診前にどのように対処したか?

S … similar episodes これまでに似たエピソードはなかったか?

結局、何が(What)、いつ(When)、どこ(Where)、どんな・どれくらい(How)で起きたか訊くのが大事です。5W1Hでは他に誰(Who)、なぜ(Why)がありますが、こちらは医療面接では直接的には取り入れづらいかもしれません。

LIQORAAA

「AAA級のお酒」という英語圏のフレーズです。

L … location 部位

I … intensity 強度

Q … quality 性質

O … onset 発症様式

R … radiation 放散

A … alleviative factors 寛解因子

A … aggravating factors 増悪因子

A … associated symptoms 随伴症状

SIQORAAA(S:site 部位)という類似版もあります。

LQQTSFA

L … location 部位

Q … quality 質

Q … quantity 量

T … timing 発症様式〜時系列

S … setting 環境

F … factors 寛解・増悪因子

A … associated symptoms 随伴症状

LQQTSFAはtimingとsettingが特徴的です。

OLQIFAT

O … onset 発症様式

L … location 部位

Q … quality 性質

I … intensity 強度

F … factors 増悪・寛解因子

A … associated symptoms 随伴症状

T … time course 時系列

OLQIFATは医療面接の順におおむね沿っています。

患者背景に関する語呂合わせ

FAMPLES

F … family 家族歴

A … allergy・ADL アレルギー・ADL

M … medication 内服薬

P … past history・pregnancy 既往歴・妊娠

L … last meal 最後にとった食事

E … events 出来事

S … sake・smoke・syoku 飲酒・喫煙・職業

AMPLEが原型ですが、AMPLE→SAMPLE→FAMPLESと項目を増やせます。

かきくけこさしすせそ

か … 家族歴

き … 既往歴

く … くすり

け … 健康診断

こ … 渡航歴

 

さ … 酒タバコ

し … 食事

す … 睡眠

せ … 性活動

そ … ソーシャル(職業など)

食事や睡眠も入っているのが特徴的です。五快や三快一重での確認も有効です。

快食

快便

快眠

快動

快重

ABCDEFG

A … allergy・anamnese アレルギー・既往歴

B … background 患者背景(職業・居住)

C … cook 食事・飲酒喫煙

D … drug 内服薬

E … exposure 暴露(ペット・海外渡航歴)

F … family 家族歴

G … gynecology 婦人科(妊娠・月経)

ゴロは良いですが、ちょっと思い出しづらいかもしれません。

PDASFROS

P … past history 既往歴

D … drug 薬剤歴

A … allergy アレルギー

S … social history 社会歴

F … family history 家族歴

ROS … review of systems 臓器ごとの系統的な問診

Review of systemsを含めている点が特徴的です。

特定の場面で役立つ語呂合わせ

CUPSOUP(病状説明)

C … circumstance 時間と場所を予約

U … you あなたの考えを整理する

P … partner 相手の状況を分析する

S … share 共有する

O … offer その上で提案する

U … unite 対話して調整する

P … plan 計画をまとめる

カップにあたたかいスープを注ぐように、病状説明を行う時のコンセプトをまとめた語呂合わせです。天野先生の著書「病状説明 ケースで学ぶハートとスキル」(医学書院 2020年)で詳述されています。

sCGA & mCGA(訪問診療・高齢者診療)

s … support サポート(介護者は誰か?、公的な支援は?)

C … cognition 認知機能

G … geriatric giants 老年医学の巨人(うつ・転倒・尿失禁)

A … ADL 日常生活動作(BADL・IADL・AADL)

   

m … medication 薬の調整・減薬

C … care the caregiver 介護者のケア

G … geriatric vitals 五快(快食・快便・快眠・快動・快重)

A … analgesia 緩和ケア

CGA(高齢者総合的機能評価)に合わせた語呂合わせです。sはstart-up、mはmodifiedに由来します。

MIST(救急隊からの情報収集)

M … mechanism 受傷機転

I … injury 損傷部位

S … sign バイタルサイン

T … treatment 処置

救急隊では、MISTと前述のSAMPLE(ただしSはsake・smoke・syokuではなくsymtoms 症状)に加えてGUMBAも広く知られています。

G … 原因

U … 訴え

M … めし

B … 病歴と薬

A … アレルギー

あいうえおs(発熱性好中球減少症の症状確認)

あ … perianal abscess(肛門周囲膿瘍)

い … insertion(ルート部分の感染、カテーテル関連血流感染)

う … upper gastrointestinal tract(上部消化管)

え … eye(眼)

お … oral ulcer(口内炎)

S … skin(皮膚)、sinus(副鼻腔)

発熱性好中球減少症(FN)では症状が出にくいですが、それでも医療面接・身体診察は重要です。その際に普段の診療に加えて、特に注意すべき部位は「あいうえおs」とまとめられています。

語のイメージから連想するのもありかもしれません。たいルート、っとなる上部消化管症状、っと見開く眼、っと開く口、のようなイメージです。あるいはアルファベットの“O”から口をイメージしても良いと思います。

はひふへほ(低血糖の症状確認)

は … 腹が減った

ひ … 冷や汗

ふ … ふるえ

へ … へんに動悸がする

ほ … ほうっておくと昏睡

CAGE(アルコール依存症)

C … cut down お酒を減らそうと思ったことは?

A … annoyed 誰かに飲酒を非難されて腹が立ったことはあるか?

G … guilty 飲酒に罪悪感はあるか?

E … eye opener 朝酒や迎え酒をしたことはあるか?

4項目中2項目以上でアルコール依存症が疑われます。

MATTERS(薬物中毒)

MA … medication amount 薬の種類と量

TT … time taken 内服にかかった時間

E … emesis 嘔吐の有無

R … reason 過量内服の理由

S … signs & symptoms バイタル変化や中毒症状

うつ(PHQ-2、2質問法)

う … 抑うつ気分(憂鬱な気分になったり、気分が落ち込んだりする)

つ … つまらない(興味・喜びの喪失、何をしても楽しくないと感じる)

1つでもyesなら陽性で、感度97%、特異度67%と報告されています。BMJ 2003;327:1144

参考資料

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https://med-journey.com/interview/feed/0