ニカルジピン(英語:Nicardipine 商品名:ペルジピン)の投与方法についてまとめます。
- 緊急時には例えば、小さいニカルジピン1A(2mg / 2mL)を半量から使います。
- ニカルジピンは高血圧性緊急症に 0.5〜6.0 γ で使います。
- ニカルジピン原液組成(50mg / 50mL)なら 0.5 γ = 体重 x 0.03 mL/h です。
- 原液や、20時間以上、45mL/h以上で使う時は、静脈炎に注意します。
ニカルジピン1Aは…?
ニカルジピン1Aは、いくつかの大きさがありますが、いずれも濃度は同じで、1mg / 1mL(0.1%)です。
- 小サイズ 2mg / 2mL
- 中サイズ 10mg / 10mL
- 大サイズ 25mg / 25mL
ニカルジピンの添付文書によると、適応によって投与速度の範囲が異なります。
手術時の異常高血圧の救急処置…(中略)…1分間に、体重1kg当たり2〜10μg…
高血圧性緊急症…(中略)…1分間に、体重1kg当たり0.5〜6μg…
急性心不全…(中略)…1分間に、体重1kg当たり0.5〜2μg…
ニカルジピンは、高血圧性緊急症に対して、0.5〜6 γ で使います。
製薬会社から早見表が配布されていますが、5〜10倍希釈を推奨していますので、多くの早見表では希釈した場合の速度を書いています。実際には、静脈炎に注意しつつ、原液投与も広く行われていますので、以下にまとめます。
ニカルジピンの代表的な投与方法
原液の場合
原液の具体例:ニカルジピン 50mg / 50mL
γ = 体重 x 0.06 mg/h = 体重 x 0.06 x (50mL / 50mg) x mg/h = 体重 x 0.06 mL/h です。
両辺を半分に割って、0.5 γ = 体重 x 0.03 mL/h です。
なお、濃度は 1mL = 1000mg として計算すると、1mg / 1mL = 1mg / 1000mg = 0.1%です。
▼ニカルジピン原液【体重・γ毎の早見表】単位:mL/h
体重 | 0.5 γ | 1 γ | 2 γ | 3 γ | 4 γ | 5 γ | 6 γ |
---|---|---|---|---|---|---|---|
30 kg | 0.9 | 1.8 | 3.6 | 5.4 | 7.2 | 9 | 10.8 |
40 kg | 1.2 | 2.4 | 4.8 | 7.2 | 9.6 | 12 | 14.4 |
50 kg | 1.5 | 3 | 6 | 9 | 12 | 15 | 18 |
60 kg | 1.8 | 3.6 | 7.2 | 10.8 | 14.4 | 18 | 21.6 |
70 kg | 2.1 | 4.2 | 8.4 | 12.6 | 16.8 | 21 | 25.2 |
80 kg | 2.4 | 4.8 | 9.6 | 14.4 | 19.2 | 24 | 28.8 |
2倍希釈の場合
2倍希釈の具体例:ニカルジピン 20mg / 20mL + 生食20mL = ニカルジピン 20mg / 40mL
γ = 体重 x 0.06 mg/h = 体重 x 0.06 x (50mL / 25mg) x mg/h = 体重 x 0.12 mL/h です。
両辺を半分に割って、0.5 γ = 体重 x 0.06 mL/h です。
なお、濃度は 1mL = 1000mg として計算すると、1mg / 2mL = 1mg / 2000mg = 0.05%です。原液0.1%の半分です。
▼ニカルジピン2倍希釈【体重・γ毎の早見表】単位:mL/h
体重 | 0.5 γ | 1 γ | 2 γ | 3 γ | 4 γ | 5 γ | 6 γ |
---|---|---|---|---|---|---|---|
30 kg | 1.8 | 3.6 | 7.2 | 10.8 | 14.4 | 18 | 21.6 |
40 kg | 2.4 | 4.8 | 9.6 | 14.4 | 19.2 | 24 | 28.8 |
50 kg | 3 | 6 | 12 | 18 | 24 | 30 | 36 |
60 kg | 3.6 | 7.2 | 14.4 | 21.6 | 28.8 | 36 | 43.2 |
70 kg | 4.2 | 8.4 | 16.8 | 25.2 | 33.6 | 42 | 50.4 |
80 kg | 4.8 | 9.6 | 19.2 | 28.8 | 38.4 | 48 | 57.6 |
5倍希釈の場合
5倍希釈の具体例:ニカルジピン 10mg / 10mL + 生食 40mL = ニカルジピン 10mg / 50mL
γ = 体重 x 0.06 mg/h = 体重 x 0.06 x (50mL / 10mg) x mg/h = 体重 x 0.3 mL/h です。
両辺を半分に割って、0.5 γ = 体重 x 0.15 mL/h です。
なお、濃度は 1mL = 1000mg として計算すると、1mg / 5mL = 1mg / 5000mg = 0.02%です。原液0.1%の5分の1です。
▼ニカルジピン5倍希釈【体重・γ毎の早見表】単位:mL/h
体重 | 0.5 γ | 1 γ | 2 γ | 3 γ | 4 γ | 5 γ | 6 γ |
---|---|---|---|---|---|---|---|
30 kg | 4.5 | 9 | 18 | 27 | 36 | 45 | 54 |
40 kg | 6 | 12 | 24 | 36 | 48 | 60 | 72 |
50 kg | 7.5 | 15 | 30 | 45 | 60 | 75 | 90 |
60 kg | 9 | 18 | 36 | 54 | 72 | 90 | 108 |
70 kg | 10.5 | 21 | 42 | 63 | 84 | 105 | 126 |
80 kg | 12 | 24 | 48 | 72 | 96 | 120 | 144 |
10倍希釈の場合
10倍希釈の具体例:ニカルジピン 10mg / 10mL + 生食 90mL = ニカルジピン 10mg / 100mL
γ = 体重 x 0.06 mg/h = 体重 x 0.06 x (50mL / 5mg) x mg/h = 体重 x 0.6 mL/h です。
両辺を半分に割って、0.5 γ = 体重 x 0.3 mL/h です。
なお、濃度は 1mL = 1000mg として計算すると、1mg / 10mL = 1mg / 10000mg = 0.01%です。原液0.1%の10分の1です。
▼ニカルジピン10倍希釈【体重・γ毎の早見表】単位:mL/h
体重 | 0.5 γ | 1 γ | 2 γ | 3 γ | 4 γ | 5 γ | 6 γ |
---|---|---|---|---|---|---|---|
30 kg | 9 | 18 | 36 | 54 | 72 | 90 | 108 |
40 kg | 12 | 24 | 48 | 72 | 96 | 120 | 144 |
50 kg | 15 | 30 | 60 | 90 | 120 | 150 | 180 |
60 kg | 18 | 36 | 72 | 108 | 144 | 180 | 216 |
70 kg | 21 | 42 | 84 | 126 | 168 | 210 | 252 |
80 kg | 24 | 48 | 96 | 144 | 192 | 240 | 288 |
ニカルジピンの副作用
原液で末梢静脈から投与している時には、静脈炎に注意します。ただし、原液でなくても、静脈炎は起こり得ます。
降圧薬として使用している時には、過降圧に注意します。また、反射性に頻脈を起こすことがあります。
以前は脳出血急性期は禁忌でした。止血が完成していないと、出血を促進する可能性が指摘されていたためです。今では禁忌ではありませんが注意します。
添付文書には重大な副作用として、麻痺性イレウス、低酸素血症、肺水腫・呼吸困難、狭心痛、血小板減少、肝機能障害・黄疸の記載があります。
添付文書から、その他の副作用を下記に引用します。
その他の副作用 | 頻度不明 |
---|---|
循環器 | 頻脈、心電図変化、血圧低下、肺動脈圧の上昇(急性心不全時)、心係数の低下(急性心不全時)、心室頻拍(急性心不全時)、チアノーゼ(急性心不全時)、動悸、顔面紅潮、全身倦怠感、心室性期外収縮、房室ブロック |
肝臓 | 肝機能異常(AST(GOT)・ALT(GPT)等の上昇) |
腎臓 | BUN上昇、クレアチニン上昇 |
消化器 | 嘔気、嘔吐、むかつき |
過敏症 | 皮疹 |
その他 | 頭痛、体温の上昇、尿量減少、血中総コレステロールの低下、悪寒、背部痛、血清カリウムの上昇、静脈炎 |
ニカルジピンのエビデンス
ニカルジピン 20時間以上・45mL/h以上の投与が静脈炎のリスク因子
ニカルジピンの静脈炎に関して、九州大学の有名な研究によると、20時間以上、45mL/h以上が静脈炎ハイリスクとのことです。Yuri Narishige, et al. ICUにおけるニカルジピン注射液による血管障害の危険因子の解析. 医療薬学 2012: 38; 541-546
意外と濃度による差はそれほど大きくないようです。ただ、この研究では大半が添付文書の推奨濃度(0.01〜0.02%)でしたので、実際の臨床では希釈するとinがかさむため原液投与も行われており、注意が必要です。
まとめ
- 緊急時には例えば、小さいニカルジピン1A(2mg / 2mL)を半量から使います。
- ニカルジピンは高血圧性緊急症に 0.5〜6.0 γ で使います。
- ニカルジピン原液組成(50mg / 50mL)なら 0.5 γ = 体重 x 0.03 mL/h です。
- 原液や、20時間以上、45mL/h以上で使う時は、静脈炎に注意します。