抗真菌薬のスペクトラムとポイントのまとめ

抗菌薬の資料はたくさんあるけれど、抗真菌薬の資料って意外と少ないよね

この記事で代表的な抗真菌薬のスペクトラムとポイントをまとめるよ!

真菌別のスペクトラムまとめ

大枠

アゾール系・キャンディン系・ポリエン系のおおまかなスペクトラムは下記です。ただし下表は大まかな傾向を示すもので、たとえば希少深在性真菌症について実際にはムーコルをL-AMB・PSCZ・ISCZがカバーし、フサリウムをVRCZがカバーする等、細かいところが多々ありますので、ご注意ください。

FLCZITCZ
VRCZ
PSCZ
ISCZ
MCFG
CPFG
L-AMB
カンジダ    
アスペルギルス    
希少深在性真菌症    

L-AMBを中心としてまとめる方法もあり、スッキリします。代表的な酵母としてカンジダとクリプトコックスを、代表的な糸状菌としてアスペルギルスとムーコルを覚えると分かりやすいです。

L-AMB効果ありL-AMB効果なし
酵母カンジダ
クリプトコックス
C. lusitaniae
トリコスポロン
糸状菌アスペルギルス
ムーコル
A. terreus
フサリウム
スケドスポリウム
二相性真菌Blastomyces
Coccidioides
Histoplasma
Sporothrix
寄生虫リーシュマニア

カンジダ

カンジダは大きくC. albicansnon-albicans Candida(NAC)に分かれます。さらにNACの中では、C. parapsilosis(特にカテーテル関連血流感染が多い)、C. tropicalis(好中球減少下で重症化する)、C. krusei(FLCZとITCZが効果乏しい)、C. glabrata(アゾール系全般が効果乏しい)の4つが代表的です。

MCFGとCPFGは、C. parapsilosisのMICがやや高めだと言われていますが、病的意義は不明です。L-AMBはC. lusitaniaeに無効です。近年、多剤耐性のC. aurisのアウトブレイクが報告され、WHOが注意喚起しています。

出現頻度[%]FLCZITCZVRCZPSCZISCZMCFGCPFGL-AMB
C. albicans40-60        
C. parapsilosis5-30        
C. tropicalis5-30        
C. krusei2-4        
C. glabrata5-30        
C. lusitaniae0.5-1        
C. kefyr0.5-1        
C. guilliermondii0.5-1        
C. auris<0.01         

アスペルギルス

FLCZはアスペルギルスに対して無効ですが、ITCZ以降のアゾール系は有効で、特にVRCZが用いられることが多いです。キャンディン系もカバーしていますが、明らかなアスペルギルス肺炎ならばVRCZ・PSCZ・ISCZのほうが一般的に優先されます。L-AMBはA. terreusに対して無効です。

FLCZITCZVRCZPSCZISCZMCFGCPFGL-AMB
A. fumigatus        
A. flavus        
A. niger        
A. terreus        

希少深在性真菌症(ムーコル等)

VRCZは希少深在性真菌症に対するキードラッグですが、VRCZはムーコルをカバーしていません。ムーコルに対しては、限局している時には手術を考慮し、抗真菌薬としてはL-AMB点滴が第一選択となります。長期治療が必要となりますので、内服への移行時はPSCZあるいはISCZを用いることとなります。PSCZは中枢神経系に届きにくいですが、ISCZは中枢神経系にも届きやすいです。

MCFGとCPFGはクリプトコックスをカバーしていませんので、市中からの持ち込みの感染では忘れないようにします。白血病寛解導入ではMCFG 50mgで予防投与することも多いかと考えられますが、クリプトコックスが盲点になることがあります(同様に、細菌では、MEPMやTAZ/PIPCがカバーしていないレジオネラ肺炎が盲点になることがあります)。

FLCZITCZVRCZPSCZISCZMCFGCPFGL-AMB
ムーコル        
フサリウム        
トリコスポロン        
スケドスポリウム        
クリプトコックス        

抗真菌薬別のポイントまとめ

アゾール系

まず、FLCZ(フルコナゾール)とF-FLCZ(ホスフルコナゾール、プロジフ)のポイントです。

FLCZのポイント
  1. FLCZは、C. albicans、C. parapsilosis、C. tropicalisをカバーし、C. krusei、C. glabrataをカバーしていない。
  2. FLCZは、クリプトコックスをカバーし、アスペルギルス、ムーコル、フサリウム、トリコスポロン、スケドスポリウムをカバーしていない。
  3. 予防:FLCZ(100mg)1〜2T/1x 朝後
  4. 口腔カンジダ:FLCZ(100mg)1T/1x 朝後 7〜14日間
  5. 食道カンジダ:FLCZ(100mg)2T/1x 朝後 14〜21日間
  6. 症候性カンジダ性膀胱炎:FLCZ(100mg)2T/1x 朝後 14日間
  7. 上行性カンジダ性腎盂腎炎:FLCZ(100mg)2〜4T/1x 朝後 14日間
  8. カンジダ膣炎:軽症ならFLCZ150mg単回内服 重症ならFLCZ150mg内服を3日ごとに2〜3回
  9. FLCZ 点滴:800mg/400mL 1日1回2時間でdiv x2日間 → 400mg/200mL 1日1回1時間でdiv
  10. F-FLCZ 静注:800mg/10mL 1日1回1分でiv x2日間 → 400mg/5mL 1日1回30秒でiv(F-FLCZはFLCZのプロドラッグで、FLCZの40分の1の液量)
  11. 腎障害(CCr<50)で半減する。
  12. 肝障害、消化器症状、皮疹に注意する。相互作用は必ずチェック!

次に、ITCZ(イトラコナゾール)のポイントです。

ITCZのポイント
  1. ITCZのスペクトラムは、FLCZより少し広がり、アスペルギルス二相性真菌をカバーする。
  2. ITCZはABPAのPSL併用、CPPAの維持、真菌感染予防(推奨度は低い)、爪白癬へのパルス療法で用いる。
  3. ITCZは吸収率と移行性が悪い。吸収率を上げるために、内用液は空腹時(食間や就寝前)カプセル・錠剤は食直後に内服する。眼・中枢神経に移行しない。
  4. 例:治療で内用液20mL 1日2回予防で内用液20mL 1日1回、CCr<10で半減
  5. 副作用は消化器症状(嘔気・嘔吐・腹痛・下痢)13〜24%で、FLCZやPSCZより多い。肝障害7〜32%で、FLCZやPSCZと同様。腎障害5〜7%、皮疹4〜7%
  6. 代表的なCYP3A4阻害剤で、半減期も長いため要注意。P-gpも阻害する。

続いて、VRCZ(ボリコナゾール、ブイフェンド)のポイントです。TDMが必要です。

VRCZのポイント
  1. VRCZは、カンジダ(C. krusei C. guilliermondii を含む)、アスペルギルス(IPAの第1選択)、フサリウム、トリコスポロン、スケドスポリウム、クリプトコックスをカバーし、ムーコルをカバーしていない。
  2. VRCZは、1日目600mg/2x、2日目以降300〜400mg/2x 朝夕食後2時間で投与し、トラフ濃度 1〜4 μg/mL を目標としてTDMを行う。点滴の場合、1日目6mg/kgを12時間毎、2日目以降3〜4mg/kgを12時間毎、1V200mgあたり注射用水19mLが必要。
  3. VRCZは腎障害で減量不要だが、CCr<50mL/minで添加剤の蓄積毒性のため点滴を避ける。肝障害 Child-Pugh A・Bで維持量を半減、Cでトラフ濃度 1〜3 μg/mL とする。肥満で補正体重を用いる。
  4. 視覚障害、肝障害に注意する。長期投与で骨周囲炎、関節炎に注意する。
  5. CYP3A4→Tac・CsA・CY・VCR等、CYP2C19→LTV等と相互作用に注意する。

そして、PSCZ(ポサコナゾール、ノクサフィル)のポイントです。

PSCZのポイント
  1. PSCZはカンジダ、アスペルギルス、ムーコル、トリコスポロン、スケドスポリウム、クリプトコックスをカバーし、フサリウムをカバーしない。VRCZはムーコルをカバーせず、フサリウムをカバーする。
  2. PSCZは中枢神経に届きにくいTDMは保険適応なし
    VRCZは中枢神経に届き、TDMが可能である。
  3. PSCZは初日のみローディングが必要。PSCZは食後で良いが、VRCZは空腹時。
    1日目 ノクサフィル(100mg) 6T/2x 朝夕後
    2日目〜ノクサフィル(100mg) 3T/1x 朝後
  4. PSCZ点滴は添加剤SBECDの腎への蓄積毒性に注意。用量は内服と同様。
    1日目 ノクサフィル 300mg + 生食250mL 1日2回 中心静脈に90分でdiv
    2日目〜ノクサフィル 300mg + 生食250mL 1日1回 中心静脈に90分でdiv
  5. 消化器症状・肝障害・偽性アルドステロン症での低K血症に注意する。
  6. CYP3A4を強く阻害し、Tac・CsA・VCR・CY・VEN・Pona・Ruxo等の濃度を上げる。
  7. PSCZはAML/MDSの好中球減少期、移植後のGVHD発症期に真菌感染予防としてエビデンスが確立されている。

新発売のISCZ(イサブコナゾール、クレセンバ)のポイントです。

ISCZのポイント
  1. ISCZの適応はアスペルギルス・ムーコル・クリプトコックス
  2. ISCZは2日間のローディングが必要。食後も空腹時も可。
    1〜2日目 クレセンバ(100mg)6T/3x
    3日目〜 クレセンバ(100mg)2T/1x
  3. ISCZ点滴は、PSCZと異なり、SBECDを含まず腎臓に優しい。末梢投与可。
    1〜2日目 クレセンバ200mg + 注射用水5mL + 生食250mL/1時間以上 q8h
    3日目〜 クレセンバ200mg + 注射用水5mL + 生食250mL/1時間以上 q24h
  4. 副作用はVRCZより少ないが、消化器症状(嘔気 10〜27.6%、嘔吐 15.5〜27%、下痢 15.5〜32%)、肝障害 8.6〜9%、低K血症 17.5〜18.2%、頭痛 16%、QT短縮、infusion-related reactionsに注意する。
  5. CYP3Aを中等度に阻害する(FLCZと同等)。中枢神経系に移行する。

キャンディン系

使用頻度の高いMCFG(ミカファンギン、ファンガード)のポイントです。

MCFGのポイント
  1. MCFGはβ-(1,3)-Dグルカン合成を阻害し、カンジダに殺菌的に、アスペルギルスに静菌的に作用する。β-(1,6)-Dグルカンが主体のムーコル、フサリウム、トリコスポロン、クリプトコックス、α-Dグルカンが主体の酵母相の二相性真菌に効果が乏しい。
  2. 予防の MCFG 50mg + 生食100mL 1日1回30分でdiv
    治療の例 MCFG 100〜150mg + 生食100mL 1日1回1時間でdiv
  3. CNSへの移行性は不良。主な副作用は肝障害。肝障害・腎障害での減量なし。

CPFG(カスポファンギン、カンサイダス)のポイントです。日本での承認はMCFGの後ですが、CPFGのほうが古い薬です。

CPFGのポイント
  1. CPFGはMCFGと同様に、β-(1,3)-Dグルカン合成を阻害し、カンジダに殺菌的に、アスペルギルスに静菌的に作用する。β-(1,6)-Dグルカンが主体のムーコル、フサリウム、トリコスポロン、クリプトコックス、α-Dグルカンが主体の酵母相の二相性真菌に効果が乏しい。
  2. CPFGはローディングが必要。投与例:
    1日目 CPFG 70mg + 生食250mL 1日1回2時間で点滴
    2日目〜CPFG 50mg + 生食100mL 1日1回1時間で点滴
  3. CNSへの移行は不良。主な副作用は肝障害。
    肝硬変Child-Pugh Bで50mg→35mgに減量あり。腎障害で減量なし。

2024年現在、日本では未承認ですが、ANFGとRZFGも期待されています。

  • CPFG(カスポファンギン、商品名カンサイダス)
  • MCFG(ミカファンギン、商品名ファンガード)
  • ANFG(アニデュラファンギン) ※日本で未承認
  • RZFG(レザファンギン) ※日本で未承認、週1回投与

ポリエン系

L-AMB(アムビゾーム)のポイントです。

L-AMBのポイント
  1. L-AMBは、大半の真菌(カンジダ・アスペルギルス・ムーコル・クリプトコックス)に殺菌的に作用するが、C. lusitaniaeA. terreus、フサリウム、トリコスポロン、スケドスポリウムに効果が乏しい。
  2. 投与例:下記①②③合わせて1日1回1〜2時間でdiv
    L-AMB 2.5〜5mg/kg(用量はFN 2.5mg/kg、最大5mg/kg、クリプトコックス髄膜炎6mg/kg)
    注射用水(L-AMB 50mgあたり)12mL
    5%ブドウ糖250mL(L-AMB 2.5mg/kg未満なら100mL可)
  3. 主な副作用は、腎障害、低K血症、低Mg血症、点滴中の発熱・寒気・嘔気
    ただし腎障害で減量規定はない。幹細胞輸注日には投与しない
  4. L-AMBは腎障害を軽減するDDS(Drug Delivery System)の性質を有するが、そのために尿路への移行性が悪く真菌性尿路感染症には適さない。真菌性髄膜炎に治療実績がある。

参考資料

1) 深在性真菌症の診断・治療ガイドライン 2014 小児領域改訂版(2016年)

2) 日本医真菌学会編:侵襲性カンジダ症に対するマネジメントのための臨床実践ガイドライン(2021年)

3) 日本造血・免疫細胞療法学会編:造血細胞移植ガイドライン 真菌感染症の予防と治療 第2版(2021年)

4) 日本化学療法学会/日本TDM学会編:抗菌薬TDM臨床実践ガイドライン VRCZ更新版(2022年)

5) 日本医真菌学会編:希少深在性真菌症の診断・治療ガイドライン(2024年)

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