カスポファンギンの特徴と投与方法

カスポファンギン(英語:Caspofungin 略称:CPFG 商品名:カンサイダス)の特徴と投与方法をまとめます。

まとめ
  1. CPFGはMCFGと同様に、β-(1,3)-Dグルカン合成を阻害し、カンジダに殺菌的に、アスペルギルスに静菌的に作用する。β-(1,6)-Dグルカンが主体のムーコル、フサリウム、トリコスポロン、クリプトコックス、α-Dグルカンが主体の酵母相の二相性真菌に効果が乏しい。
  2. CPFGはローディングが必要。投与例:
    1日目 CPFG 70mg + 生食250mL 1日1回2時間で点滴
    2日目〜CPFG 50mg + 生食100mL 1日1回1時間で点滴
  3. CNSへの移行は不良。主な副作用は肝障害。
    肝硬変Child-Pugh Bで50mg→35mgに減量あり。腎障害で減量なし。

CPFGの位置付け

最初に開発されたエキノキャンディン系

エキノキャンディン系は主に4種類で、CPFGが世界で最初に承認されました。真菌グラレア・ロゾエンシス(Glarea lozoyensisに由来します。真菌を倒す薬が真菌に由来するのは興味深いです。

2024年現在、日本で使えるのはCPFGとMCFGです。

  • CPFG(カスポファンギン、商品名カンサイダス)
  • MCFG(ミカファンギン、商品名ファンガード)
  • ANFG(アニデュラファンギン) ※日本で未承認
  • RZFG(レザファンギン) ※日本で未承認、週1回投与

MCFGとの比較

CPFGはローディングが必要、投与量はほとんど固定、肝障害で減量あり、薬物相互作用に注意という特徴があります。

CPFGMCFG
日本での認可2012年2002年
ローディング70mg不要
予防投与量50mg
治療投与量50mg100〜150mg
最大投与量300mg
肝障害での減量Child-Pugh Bで35mgなし
腎障害での減量なしなし
相互作用CPFGはTac濃度を下げる
CsAはCPFG濃度を下げる
少ない
薬価50mg:約16000円
70mg:約23000円
50mg:約1500円
100mg:約3000円
150mg:約4500円

上記の表通り、どちらかといえばMCFGのほうが使いやすく安価ですが、MCFGは予防量と治療量が異なる点に注意します。地域によってはMCFG 50mg → 100〜150mg への切り替えが保険上認められにくいこともあるかもしれません。

スペクトラム

CPFGのスペクトラムは、MCFGとほとんど同様です。ただし、CPFGは一部の感受性検査上、偽耐性を示してしまうことがあるという問題点があり、注意します。

CPFGはMCFGと同様に、β-(1,3)-Dグルカン合成を阻害し、カンジダに殺菌的に、アスペルギルスに静菌的に作用します。β-(1,6)-Dグルカンが主体のムーコル、フサリウム、トリコスポロン、クリプトコックス、α-Dグルカンが主体の酵母相の二相性真菌に効果が乏しいです。

FLCZITCZ
VRCZ
PSCZ
ISCZ
MCFG
CPFG
L-AMB
カンジダ    
アスペルギルス    
二相性真菌    

CPFGとカンジダについて、少し細かくみていきます。CPFGは、MCFG同様、カンジダの専門家です。CPFG使用中に、酵母がブレークスルー感染を生じてきたら、耐性カンジダ、トリコスポロン、クリプトコックスを考える必要があります。

出現頻度[%]FLCZITCZVRCZPSCZISCZMCFGCPFG
C. albicans40-60       
C. parapsilosis5-30       
C. tropicalis5-30       
C. krusei2-4       
C. glabrata5-30       
C. lusitaniae0.5-1       
C. kefyr0.5-1       
C. guilliermondii0.5-1       
C. auris<0.01       

続いて、CPFGとアスペルギルスについて確認します。L-AMBが自然耐性のA. terreusを含めてカバーするものの静菌的です。静菌的な機序として、菌糸の伸長抑制作用を示します。したがって、アスペルギルス等の糸状菌感染が明らかな状況であれば、CPFGよりもVRCZ等を優先することが多いです。

FLCZITCZVRCZPSCZISCZMCFGCPFGL-AMB
A. fumigatus        
A. flavus        
A. niger        
A. terreus        

そして希少深在性真菌症についても確認します。CPFGは、MCFG同様、希少深在性真菌症をほとんどカバーしていません

FLCZITCZVRCZPSCZISCZMCFGCPFGL-AMB
ムーコル        
フサリウム        
トリコスポロン        
スケドスポリウム        
クリプトコックス        

スペクトラムの細かい部分についてはミカファンギンの記事をご参照ください。

移行性

MCFGと同様で、眼・中枢神経系には移行しにくいです。眼内炎や真菌性髄膜炎に無効です。

中枢神経系への移行性
良好:FLCZ、VRCZ、ISCZ、L-AMB
不良:ITCZ、PSCZ、MCFG、CPFG

CPFGの投与方法

点滴

MCFGと同じく、点滴のみです。

剤型は50mgと70mgのものがあります。

薬価は50mgで約16000円、70mgで約23000円です。2024年現在CPFGには後発品がないですが、MCFGには後発品があるため、CPFGのほうがMCFGよりも約4倍高額です(MCFG 150mgで約4500円)。

MCFGはローディング不要ですが、CFPGはローディングが必要です。

1日目 CPFG 70mg + 生食250mL 1日1回2時間でdiv
2日目〜CPFG 50mg + 生食100mL 1日1回1時間でdiv

点滴時間について添付文書で1時間以上と規定されています。非臨床試験で投与速度とヒスタミン遊離作用に関連がみられたため、臨床試験で1時間と設定されました。30分での投与は推奨されていません。なお、1日目も1時間でも良いですが、投与量が250mLと多めですので配慮します。

CPFG 70mgの溶媒は100mLではなく250mLが推奨されています。

溶媒の種類は生理食塩液又は乳酸リンゲル液が推奨されています。

CPFGはブドウ糖を含む希釈液中では不安定です。

腎障害・肝障害

腎障害での減量規定はありません。透析で除去されません。

肝硬変Child-Pugh Bで50mg→35mgに減量します。Child-Pugh Cでは推奨されていません。

ただし、この35mgへの減量有無について、肝硬変に由来しないChild-Pughスコア低下時は慎重に検討すべきです。ICUにおいて、非肝硬変で、低アルブミン血症に由来するChild-Pughスコア低下時にCPFGを50mg→35mgに減らすと、有効な曝露量が得られない可能性が指摘されています。Martial LC, Brüggemann RJM, Schouten JA, van Leeuwen HJ, van Zanten AR, de Lange DW, et al. Dose Reduction of Caspofungin in Intensive Care Unit Patients with Child Pugh B Will Result in Suboptimal Exposure. Clin Pharmacokinet. 2016;55: 723–733.

CPFGの副作用・相互作用

副作用

CPFGの副作用として、特に肝障害に注意します。

CPFGの主な副作用の頻度は、嘔気2〜6%、嘔吐2〜3.5%、下痢1〜4%、肝障害1〜15%、腎障害0〜8%、低K血症 70mgで11%、50mgで4%未満、皮疹1〜6%と報告されています。他のエキノキャンディン系と比べると、ヒスタミン誘発反応が少し多いとされています。Chau MM, Daveson K, Alffenaar J-WC, Gwee A, Ho SA, Marriott DJE, et al. Consensus guidelines for optimising antifungal drug delivery and monitoring to avoid toxicity and improve outcomes in patients with haematological malignancy and haemopoietic stem cell transplant recipients, 2021. Intern Med J. 2021;51 Suppl 7: 37–66.

なお、添付文書では重大な副作用としてアナフィラキシー、肝機能障害、中毒性表皮壊死融解症(TEN)、皮膚粘膜眼症候群(SJS)が記載されています。5%以上の副作用として肝機能異常、ALT増加、AST増加、γ-GTP増加が記載されています。

相互作用

CPFGはTac濃度を低下させます。

CsAはCPFG濃度を上昇させます。

CPFGはMCFG同様、CYP450には影響されにくく、アゾール系との相互作用は乏しいです。しかしながら、CPFGは肝取り込みトランスポーターOATP1B1の低親和性基質で、薬物相互作用が問題になります。OATP1B1阻害薬としてシクロスポリンやリファンピシンが代表的です。

添付文書で注意が促されているように、エファビレンツ、ネビラピン、リファンピシン、デキサメタゾン、フェニトイン、カルバマゼピンとCPFGを併用する場合、CFPG 50mgではなく、70mgの1日1回投与を考慮します。リファンピシンに関しては、リファンピシン単回投与の併用ではCPFGのAUCが増加する一方で、リファンピシン定常状態ではむしろCPFGトラフ濃度が低下することが実験的に確認されています。

CPFGのエビデンス

持続性発熱性好中球減少症に対するCPFG vs L-AMB(NEJM 2004)

Merck社のサポートのもと欧米100を超える施設で行われた、持続性発熱性好中球減少症に対するCPFG vs L-AMBの、ランダム化比較試験の結果が、2004年NEJMで報告されています。

総合効果でL-AMBに対するCPFGの非劣性が示され、安全性はCPFGのほうが優れていました。

CPFGL-AMB
MITT解析対象数556539
Primary Outcome
総合効果
33.9%33.7%
真菌感染例での有効率51.9%25.9%
治療終了後7日間生存率92.6%89.2%
治療中断率10.3%14.5%
ブレイクスルー
真菌感染なし
94.8%95.5%
好中球減少下での解熱41.2%41.4%
Safety
腎障害
2.6%11.5%
注入関連反応35.1%51.6%
Walsh TJ, Teppler H, Donowitz GR, Maertens JA, Baden LR, Dmoszynska A, et al. Caspofungin versus liposomal amphotericin B for empirical antifungal therapy in patients with persistent fever and neutropenia. N Engl J Med. 2004;351: 1391–1402.

上記の臨床試験を含む、持続性発熱性好中球減少症に対するCPFG4報・MCFG2報の臨床試験をまとめたメタアナリシスがあり、エキノキャンディン系と非エキノキャンディン系では総合的有効率は同様であるものの、エキノキャンディン系のほうが死亡率が低く、有害事象も少ないと報告されています。Yamashita C, Takesue Y, Matsumoto K, Ikegame K, Enoki Y, Uchino M, et al. Echinocandins versus non-echinocandins for empirical antifungal therapy in patients with hematological disease with febrile neutropenia: A systematic review and meta-analysis. J Infect Chemother. 2020;26: 596–603.

侵襲性カンジダ症に対するCPFG vs AMB(NEJM 2002)

持続性発熱性好中球減少症に対するCPFGの臨床試験は対称群がL-AMBでしたが、侵襲性カンジダ症に対するCPFGの臨床試験での対称群はAMBでした。効果で非劣性、安全面でCPFGが優れることが示されています。

当時、カンジダ血症へのFLCZの有効性が示された時期でもありますが、非Albicansのカンジダに対してはFLCZは感受性が低下します。そんな中、ポリエン・アゾールに次ぐ、カンジダへの抗真菌薬としてCPFGが期待通りの結果を出した試験でした。

CPFGAMB
MITT解析対象数109115
Primary Outcome
総合効果
73.4%61.7%
毒性による
抗真菌薬中止
2.8%16.5%
6〜8週後の再発6.4%7.0%
Safety
臨床症状の副作用
28.9%58.4%
検査値異常24.3%54.0%
Mora-Duarte J, Betts R, Rotstein C, Colombo AL, Thompson-Moya L, Smietana J, et al. Comparison of caspofungin and amphotericin B for invasive candidiasis. N Engl J Med. 2002;347: 2020–2029.

まとめ

まとめ
  1. CPFGはMCFGと同様に、β-(1,3)-Dグルカン合成を阻害し、カンジダに殺菌的に、アスペルギルスに静菌的に作用する。β-(1,6)-Dグルカンが主体のムーコル、フサリウム、トリコスポロン、クリプトコックス、α-Dグルカンが主体の酵母相の二相性真菌に効果が乏しい。
  2. CPFGはローディングが必要。投与例:
    1日目 CPFG 70mg + 生食250mL 1日1回2時間で点滴
    2日目〜CPFG 50mg + 生食100mL 1日1回1時間で点滴
  3. CNSへの移行は不良。主な副作用は肝障害。
    肝硬変Child-Pugh Bで50mg→35mgに減量あり。腎障害で減量なし。

参考資料

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