2023年発売の新規抗真菌薬 イサブコナゾール(英語:Isavuconazole 略称:ISCZ 商品名:クレセンバ)の特徴と投与方法をまとめます。
- ISCZの適応はアスペルギルス・ムーコル・クリプトコックス
- ISCZは2日間のローディングが必要。食後も空腹時も可。
1〜2日目 クレセンバ(100mg)6T/3x
3日目〜 クレセンバ(100mg)2T/1x - ISCZ点滴は、PSCZと異なり、SBECDを含まず腎臓に優しい。末梢投与可。
1〜2日目 クレセンバ200mg + 注射用水5mL + 生食250mL/1時間以上 q8h
3日目〜 クレセンバ200mg + 注射用水5mL + 生食250mL/1時間以上 q24h - 副作用はVRCZより少ないが、消化器症状(嘔気 10〜27.6%、嘔吐 15.5〜27%、下痢 15.5〜32%)、肝障害 8.6〜9%、低K血症 17.5〜18.2%、頭痛 16%、QT短縮、infusion-related reactionsに注意する。
- CYP3Aを中等度に阻害する(FLCZと同等)。中枢神経系に移行する。
ISCZの位置付け
カンジダ・アスペルギルスは概ねカバー
ISCZの適応はアスペルギルス症・ムーコル症・クリプトコックス症です。
ISCZは、エキノキャンディン系(CPFG)との比較で非劣性を証明できなかったためカンジダへの適応はありませんが、概ねカバーしています。
出現頻度[%] | FLCZ | ITCZ | VRCZ | PSCZ | ISCZ | |
---|---|---|---|---|---|---|
C. albicans | 40-60 | |||||
C. parapsilosis | 5-30 | |||||
C. tropicalis | 5-30 | |||||
C. krusei | 2-4 | |||||
C. glabrata | 5-30 | |||||
C. lusitaniae | 0.5-1 | |||||
C. kefyr | 0.5-1 | |||||
C. guilliermondii | 0.5-1 | |||||
C. auris | <0.01 |
C. aurisへの感受性がないとする報告に基づいて、上の表ではXと記載しました。Gamal A, Long L, Herrada J, Aram J, McCormick TS, Ghannoum MA. Efficacy of Voriconazole, Isavuconazole, Fluconazole, and Anidulafungin in the Treatment of Emerging Candida auris Using an Immunocompromised Murine Model of Disseminated Candidiasis. Antimicrob Agents Chemother. 2021;65: e0054921.
一方で、C. aurisに対してエキノキャンディン系やコリスチン等とISCZの併用が相乗効果があるとする報告も散見します。
アスペルギルス症に適応があります。ただし、他のアゾール系にも言えることではありますが、報告されているデータを見る限りA. niger の感受性にはやや注意したほうが良さそうです。
また、ISCZのA. fumigatusやA. terreusに対するMICが高いこともあり、注意を要します。Jørgensen KM, Astvad KMT, Hare RK, Arendrup MC. EUCAST Susceptibility Testing of Isavuconazole: MIC Data for Contemporary Clinical Mold and Yeast Isolates. Antimicrob Agents Chemother. 2019;63. doi:10.1128/AAC.00073-19
FLCZ | ITCZ | VRCZ | PSCZ | ISCZ | |
---|---|---|---|---|---|
A. fumigatus | |||||
A. flavus | |||||
A. niger | |||||
A. terreus |
ムーコルに適応あり
ISCZはムーコル症に適応がありますが、第一選択はL-AMBです。
ムーコル症の治療で、L-AMBから内服に変更する時にPSCZとともに候補になります。PSCZは中枢神経系にほとんど移行しませんが、ISCZは中枢神経系に移行する点も強みです。また点滴治療を必要とし、かつ腎障害がある時には、L-AMBやPSCZよりもISCZが好まれます。
クリプトコックス症に対するISCZの治療成績は良好です。
FLCZ | ITCZ | VRCZ | PSCZ | ISCZ | MCFG | L-AMB | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
ムーコル | |||||||
フサリウム | |||||||
トリコスポロン | |||||||
スケドスポリウム | |||||||
クリプトコックス |
TDM・吸収率・移行性
ISCZは保険診療でTDMは不可能です。ほぼ線形の薬物動態で、代謝に個人差の大きいCYP2C9・2C19・2D6の関与が乏しく、血中濃度と有効性や安全性に明確な相関がないことからTDMは現時点では推奨もされていません。またCYP3A4の阻害は中等度で、ITCZ・VRCZ・PSCZのように高度ではなく、その観点でも比較的安全性は高いと考えられています。
TDMが可能 … VRCZ
TDMが不可能 … FLCZ, ITCZ, PSCZ, ISCZ
吸収率について、空腹時で約98%と良好で、高脂肪食後でも大きな低下なく、食事と関係なく内服可能です。
移行性について、中枢神経系に良好に移行します。髄膜炎や脳膿瘍への治療実績が報告されています。ただし治療成功率は高くは報告されていない点に留意します。
脳に移行する … FLCZ, VRCZ, ISCZ
脳に移行しない … ITCZ, PSCZ
ISCZの投与方法
内服
クレセンバカプセル100mg、薬価は約4500円です。
カプセルのサイズが24.2 x 7.7 mmと大きいです。下を向いて飲むと、少し飲みやすくなるようです。2024年5月現在、40mgの小サイズを申請中です。
吸収は良好で、食事と関係なく投与できます。
ローディングをISCZは2日間行います。VRCZやPSCZは1日間です。
通常、成人にはイサブコナゾールとして1回200mgを約8時間おきに6回経口投与する。6回目投与の12〜24時間経過後、イサブコナゾールとして1回200mgを1日1回経口投与する。
クレセンバカプセル100mg 添付文書
点滴
クレセンバ点滴静注用200mg、薬価は約28000円です。内服の3倍です。
用量は内服と同様です。注射用水5mLが必要、生食or5%ブドウ糖250mLに希釈して、1時間以上で点滴するように規定されています。
ローディングをISCZは2日間行います。F-FLCZは2日間、VRCZやPSCZは1日間です。
通常、成人にはイサブコナゾールとして1回200mgを約8時間おきに6回、1時間以上かけて点滴静注する。6回目投与の12~24時間経過後、イサブコナゾールとして1回200mgを1日1回、1時間以上かけて点滴静注する。
クレセンバ点滴静注用200mg 添付文書
腎障害・肝障害
腎障害や肝障害での減量規定はありません。ただし、濃度上昇は見られ、添付文書に詳細が記載されていて参考になります。血液透析で除去されません。
ISCZの副作用・相互作用
ISCZの副作用
ISCZの最も多い副作用は消化器症状です。嘔気 10〜27.6%、嘔吐 15.5〜27%、下痢 15.5〜32% Chau MM, Daveson K, Alffenaar J-WC, Gwee A, Ho SA, Marriott DJE, et al. Consensus guidelines for optimising antifungal drug delivery and monitoring to avoid toxicity and improve outcomes in patients with haematological malignancy and haemopoietic stem cell transplant recipients, 2021. Intern Med J. 2021;51 Suppl 7: 37–66.
肝障害 8.6〜9% にも注意しますが、VRCZより少ないです。
その他、低K血症 17.5〜18.2%、頭痛 16% にも注意します。
QT短縮が報告されていますが、その病的意義は明らかではありません。
点滴の際にはinfusion-related reactionsが報告されていますので、250mLで溶かし、1時間以上かけるようにします。
ISCZの相互作用
ISCZはCYP3A4とCYP3A5で代謝され、便中排泄と尿中排泄が半々です。ISCZはCYP3Aを中等度に阻害し、CYP2B6を誘導します。トランスポーターについて、P-gp・OCT2・MATE1を阻害します。グルクロン酸抱合について、UGTを阻害します。
Tac濃度上昇については、FLCZと同等で、PSCZの半分くらいです。したがって、Tac持続から内服への切り替え時は、FLCZならTacを4倍に、PSCZなら2倍くらいにするかと思いますが、ISCZはFLCZ相当が目安になりそうです。2021年のコンセンサスガイドラインでも CYP3A4の阻害の程度について、FLCZとISCZは同等と評価されています。Chau MM, Daveson K, Alffenaar J-WC, Gwee A, Ho SA, Marriott DJE, et al. Consensus guidelines for optimising antifungal drug delivery and monitoring to avoid toxicity and improve outcomes in patients with haematological malignancy and haemopoietic stem cell transplant recipients, 2021. Intern Med J. 2021;51 Suppl 7: 37–66.
ISCZのエビデンス
侵襲性糸状菌感染症に対して、ISCZはVRCZに非劣性(Lancet 2016)
侵襲性糸状菌感染症に対して、ISCZとVRCZを比較したSECURE試験が、ISCZのPIVOT studyです。糸状菌として一部ムーコルやフサリウムも含まれていましたが、ほとんどアスペルギルスが占めていました。
ISCZ | VRCZ | |
---|---|---|
介入 | ISCZ 200mg を1〜2日目は1日3回点滴、3日目から200mg 1日1回点滴あるいは内服 | VRCZ 1日目は6mg/kgを1日2回点滴、2日目から4mg/kgを1日2回点滴、3日目から4mg/kgを1日2回点滴あるいは200mgを1日2回内服 |
Primary Endpoint Day42の全原因死亡率 | 19% | 20% |
Safety 消化器症状 | 68% | 69% |
Safety 感染症 | 59% | 61% |
Safety 肝障害 | ||
Sefety 視覚障害 | ||
Safety 皮疹 |
ムーコル症に対して、ISCZはAMBと同等(Lancet Infect Dis 2016)
単アームのVITAL試験もISCZのエビデンス確立に一役を担いました。ムーコル症について、比較対象としてFungiScopeに登録されたAMBでの治療例と比較され、ISCZ群で42日全原因死亡率は33%で、マッチさせたAMB群での39%と同等でした。Marty FM, Ostrosky-Zeichner L, Cornely OA, Mullane KM, Perfect JR, Thompson GR 3rd, et al. Isavuconazole treatment for mucormycosis: a single-arm open-label trial and case-control analysis. Lancet Infect Dis. 2016;16: 828–837.
ISCZの予防投与では、VRCZやPSCZよりも侵襲性肺アスペルギルス症が増加(CID 2020)
オレゴン大学で2016〜2018年に、血液悪性腫瘍および移植後症例で、ISCZ・VRCZ・PSCZの予防投与を後方視的に比較した報告によると、ISCZ予防投与群で侵襲性真菌感染症、特に侵襲性肺アスペルギルス症の発生が多かったと報告されています。
ISCZ | VRCZ | PSCZ | |
---|---|---|---|
侵襲性真菌感染症 | 1.1% | 4.1% | |
侵襲性肺アスペルギルス症 | 0% | 1.3% |
まとめ
- ISCZの適応はアスペルギルス・ムーコル・クリプトコックス
- ISCZは2日間のローディングが必要。食後も空腹時も可。
1〜2日目 クレセンバ(100mg)6T/3x
3日目〜 クレセンバ(100mg)2T/1x - ISCZ点滴は、PSCZと異なり、SBECDを含まず腎臓に優しい。末梢投与可。
1〜2日目 クレセンバ200mg + 注射用水5mL + 生食250mL/1時間以上 q8h
3日目〜 クレセンバ200mg + 注射用水5mL + 生食250mL/1時間以上 q24h - 副作用はVRCZより少ないが、消化器症状(嘔気 10〜27.6%、嘔吐 15.5〜27%、下痢 15.5〜32%)、肝障害 8.6〜9%、低K血症 17.5〜18.2%、頭痛 16%、QT短縮、infusion-related reactionsに注意する。
- CYP3Aを中等度に阻害する(FLCZと同等)。中枢神経系に移行する。