イトラコナゾールの特徴と投与方法

イトラコナゾール(英語:Itraconazole 略称:ITCZ 商品名:イトリゾール)の特徴と投与方法をまとめます。

まとめ
  1. ITCZのスペクトラムは、FLCZより少し広がり、アスペルギルス二相性真菌をカバーする。
  2. ITCZはABPAのPSL併用、CPPAの維持、真菌感染予防(推奨度は低い)、爪白癬へのパルス療法で用いる。
  3. ITCZは吸収率と移行性が悪い。吸収率を上げるために、内用液は空腹時(食間や就寝前)カプセル・錠剤は食直後に内服する。眼・中枢神経に移行しない。
  4. 例:治療で内用液20mL 1日2回予防で内用液20mL 1日1回、CCr<10で半減
  5. 副作用は消化器症状(嘔気・嘔吐・腹痛・下痢)13〜24%で、FLCZやPSCZより多い。肝障害7〜32%で、FLCZやPSCZと同様。腎障害5〜7%、皮疹4〜7%
  6. 代表的なCYP3A4阻害剤で、半減期も長いため要注意。P-gpも阻害する。

ITCZの位置付け

ITCZはアスペルギルスもカバーする

FLCZはカンジダをカバーしますが、ITCZはカンジダに加えて、アスペルギルスもカバーします。

FLCZITCZ
カンジダ  
アスペルギルス  

FLCZは多くのカンジダをカバーしますが、C. krusei、C. glabrata、C. auris を通常カバーしていません。

C. guilliermondii のアゾール耐性率は約7.5〜15%です。Hirayama T, Miyazaki T, Yamagishi Y, Mikamo H, Ueda T, Nakajima K, et al. Clinical and Microbiological Characteristics of Candida guilliermondii and Candida fermentati. Antimicrob Agents Chemother. 2018 May 25;62(6):e02528-17.

カンジダへのスペクトラムに関して、ITCZはFLCZと同様です。

FLCZITCZ
C. albicans  
C. parapsilosis  
C. tropicalis  
C. krusei  
C. glabrata  
C. lusitaniae  
C. kefyr  
C. guilliermondii  
C. auris  

しかし、スペクトラムがあるのと、実際にカンジダを対象として治療薬として使うかどうかは別です。FLCZは侵襲性カンジダ症で内服への切り替え後等に使いますが、ITCZを侵襲性カンジダ症に使うことは原則としてありません。カンジダに対するスペクトラムは同様ですが、FLCZのほうが吸収率と移行性が良く、何よりもFLCZのほうがカンジダ症への歴史的な治療実績が豊富だからです。

侵襲性カンジダ症に対してITCZは使いません。

次にアスペルギルスについて詳しく見ていきます。

アスペルギルスにも沢山の菌種がありますが、臨床的に問題となるのは、主に4種類(A. fumigatus、A. flavus、A. niger、A. terreus)です。

最も多いのがA. fumigatus です。近年、イギリスやオランダをはじめ、農薬によってアゾール耐性A. fumigatus が広がっており、注意します。日本でも京都府・滋賀県での調査でA. fumigatus12.7%がアゾール耐性であったと報告されています。Tsuchido Y, Tanaka M, Nakano S, Yamamoto M, Matsumura Y, Nagao M. Prospective multicenter surveillance of clinically isolated Aspergillus species revealed azole-resistant Aspergillus fumigatus isolates with TR34/L98H mutation in the Kyoto and Shiga regions of Japan. Med Mycol. 2019;57: 997–1003.

2番目に多いのがA. flavus です。味噌や醤油等の発酵に活用されている「こうじかび」A.oryzae と似ています。

3番目に多いのがA. niger です。泡盛の醸造で活用されている「あわもりこうじかび」A. awamori と似ています。

A. terreus L-AMBへの耐性で知られています。C. lusitaniae のL-AMBへの耐性と合わせて覚えておきたいところです。

FLCZITCZ
A. fumigatus  
A. flavus  
A. niger  
A. terreus  

アスペルギルス症に対してITCZが活用されますが、位置付けはアスペルギルス症の病型によって異なります。

第一選択第二選択
IPA侵襲性肺アスペルギルス症VRCZ
L-AMB
ITCZ
MCFG
CPFG
CPPA慢性進行性肺アスペルギルス症導入:MCFG, VRCZ
維持:VRCZ, ITCZ
CPFG
ITCZ
L-AMB
SPA単純性肺アスペルギローマ無症状→経過観察
血痰→気管支動脈塞栓
血痰→病変切除
MCFG
CPFG
VRCZ
ITCZ
ABPAアレルギー性気管支肺アスペルギルス症PSL 0.5mg/kgITCZ
VRCZ

ITCZは主にABPAのPSL併用CPPAの維持で使います。

ITCZのもう一つの位置付けとして、真菌感染予防があります。カンジダに加えて、アスペルギルスもカバーしておきたい時の選択肢の一つです。ただし、IDSAガイドラインでは、下記のように、ITCZの吸収率と忍容性に懸念が表明されています。

We recommend prophylaxis with posaconazole (strong recommendation; high-quality evidence), voriconazole (strong recommendation; moderate-quality evidence), and/or micafungin (weak recommendation; low-quality evidence) during prolonged neutropenia for those who are at high risk for IA (strong recommendation; high-quality evidence). Prophylaxis with caspofungin is also probably effective (weak recommendation; low-quality evidence). Prophylaxis with itraconazole is effective, but therapy may be limited by absorption and tolerability (strong recommendation; moderate-quality evidence). Triazoles should not be coadministered with other agents known to have potentially toxic levels with concurrent triazole coadministration (eg, vinca alkaloids, and others) (strong recommendation; moderate-quality evidence).

Patterson TF, Thompson GR 3rd, Denning DW, Fishman JA, Hadley S, Herbrecht R, et al. Practice Guidelines for the Diagnosis and Management of Aspergillosis: 2016 Update by the Infectious Diseases Society of America. Clin Infect Dis. 2016;63: e1–e60. ※強調は筆者追加

ITCZは真菌感染予防に使うことがあります。

アスペルギルス予防の観点では、糸状菌カバーの抗真菌薬だけでなく、無菌環境・建設作業への留意・病室に植物や切り花を持ち込まないこと・土いじりを避けること等も大事です。

なお、皮膚科領域では、爪白癬に対して、ITCZパルス療法がガイドラインでも推奨されています。日本皮膚科学会編:皮膚真菌症診療ガイドライン2019

ITCZは二相性真菌をカバーする

真菌は、形態によって、酵母(yeast)糸状菌(mold)に大きく2つに分けられます。

そのハイブリッドが二相性真菌(二形性真菌、dimorphic fungus)で、1つの菌株が環境によって酵母型と糸状菌型の2つの形態をとります。

地域流行型の感染症を生じ、輸入真菌症と呼ばれ、海外旅行歴を確認します。

酵母の代表がカンジダ、糸状菌の代表がアスペルギルス。FLCZは主にカンジダを、ITCZはアスペルギルスもカバーするということで、ITCZが二相性真菌をカバーするというのは覚えやすいかもしれません。

FLCZITCZ
Blastomyces  
Coccidioides  
Histoplasma  
Sporothrix  

ITCZはトリコスポロンとクリプトコックスをカバーする

ITCZの希少深在性真菌症へのカバーを確認します。FLCZ同様にクリプトコックスをカバーします。FLCZはトリコスポロンへの治療に用いられることがある一方で感受性がないこともありますが、イトラコナゾールはトリコスポロンをおおむねカバーしています。しかし、ムーコル、フサリウム、スケドスポリウムはほとんどカバーしていません。

FLCZITCZVRCZPSCZMCFGL-AMB
ムーコル      
フサリウム      
トリコスポロン      
スケドスポリウム      
クリプトコックス      

ITCZは吸収率が悪い

FLCZは錠剤の吸収率がとても良いのに対して、ITCZは吸収率が悪いです。

カプセル・錠剤、内用液、注射剤と3剤型がありますが、特にカプセル・錠剤は吸収が不安定です。個人差が大きく、食事や胃内pHの影響も大きいです。吸収率を高めるために、食直後に内服する、酸性の飲み物(例:酢、コーラ)と一緒に内服する等の工夫があります。

内用液(oral solution, ITCZos)のほうがカプセル・錠剤よりも吸収率が高いです。カプセル・錠剤と異なり、内用液は空腹時(食間や就寝前)に内服します。

注射剤は溶解剤(β-シクロデキストリン)の蓄積毒性が特に腎障害が強い時に問題となります。

ITCZは主に内用液が用いられます。

海外ではITCZのTDMが利用できますが、国内では2023年現在できません。吸収率や薬物相互作用で血中濃度が変動するため、国内でもTDMを利用できるようになると、ITCZをより幅広く活用できるようになると思いますが、現状はVRCZやPSCZのほうが予防・治療の確実性が高い状況です。

ITCZは移行性が悪い

蛋白結合率が高く、眼・中枢神経にほとんど移行しません。髄膜炎の治療には使えません。

ITCZの投与方法

ABPAのPSL併用下、CPPAの維持

ITCZ内用液 1回20mL(=ITCZとして200mg)1日2回 朝夕食後2時間(空腹時)

CCr<10、血液透析、腹膜透析、CRRTでは、半減します。

真菌感染予防

ITCZ内用液 1回20mL(ITCZとして200mg)1日1回 就寝前(空腹時)

CCr<10、血液透析、腹膜透析、CRRTでは、半減を考慮します。

爪白癬に対するパルス療法

ITCZ 200mg 1日2回 食直後 1週内服・3週休薬 これを3クール実施

2023年現在、内用液は爪白癬に保険適用がないため、錠剤・カプセルで行われることが多いです。

ITCZの副作用・相互作用

ITCZの副作用

消化器症状(嘔気・嘔吐・腹痛・下痢)13〜24%で、FLCZやPSCZより多いです。肝障害7〜32%で、FLCZやPSCZと同様です。腎障害5〜7%、皮疹4〜7%です。Chau MM, Daveson K, Alffenaar J-WC, Gwee A, Ho SA, Marriott DJE, et al. Consensus guidelines for optimising antifungal drug delivery and monitoring to avoid toxicity and improve outcomes in patients with haematological malignancy and haemopoietic stem cell transplant recipients, 2021. Intern Med J. 2021;51 Suppl 7: 37–66.

心不全悪化の報告があり、留意します。

ITCZの相互作用

CYP3A4で代謝されます。高度のCYP3A4阻害作用があり、FLCZより強いです。P-gpも阻害します。

ビンクリスチン(VCR)と相互作用があり、併用は避けます。

エンドキサン(CY)と相互作用があります。ITCZは半減期が長いため(39時間)、高用量CYでは4〜7日前にITCZを中止します。ITCZ再開はCY投与終了24時間後が目安です。

リファンピシン(RFP)と相互作用があります。慢性進行性肺アスペルギルス症(CPPA)では、背景疾患として陳旧性肺結核症、非結核性抗酸菌症(NTM症)、COPD、肺嚢胞等の空洞性病変があります。特にCPPAにNTM症を合併した時にRFPとアゾール系の相互作用が問題になります。添付文書上、ITCZは併用注意(ITCZの肝代謝が促進されて血中濃度が低下)、VRCZは併用禁忌です。

ITCZのエビデンス

移植早期の予防 ITCZ vs FLCZ(Winstonらの試験、AIM 2003)

米国の5つの移植施設で行われた、同種造血幹細胞移植140症例に対する、オープンラベル多施設ランダム化試験です。

ITCZの深在性真菌症予防の有用性を示していますが、消化器症状が多かった点と、用量が内用液400mg/日と日本の2倍になっている点に注意します。

ITCZ群FLCZ群
投与方法点滴:200mg q12h 2日間→q24h
内用液:200mg q12h
点滴or内服:400mg q24h
投与日程day1〜100day1〜100
深在性真菌症9%25%
表在性真菌症4%3%
全死亡45%42%
真菌症による
死亡
9%18%
消化器症状24%9%
Winston DJ, Maziarz RT, Chandrasekar PH, Lazarus HM, Goldman M, Blumer JL, et al. Intravenous and oral itraconazole versus intravenous and oral fluconazole for long-term antifungal prophylaxis in allogeneic hematopoietic stem-cell transplant recipients. A multicenter, randomized trial. Ann Intern Med. 2003;138: 705–713.

移植早期の予防 ITCZ vs FLCZ(Marrらの試験、Blood 2004)

単施設で行われた、同種造血幹細胞移植304症例に対する、オープンラベル試験です。

ITCZ群で消化器症状等による中断が多く、ITT解析では有意差がつきませんでした。

ITCZの投与量が日本より多い点に注意します。

この論文に対して、Winstonらがレターを送っていますが、そのタイトルに”prevention is better than treatment“とあり、言い得て妙だと感じました。また、そのレター内では、ITCZの投与量が多いことや、投与開始日が移植前処置に重ならないようにすべきこと等が記載されていました。Winston DJ, Emmanouilides C, Bartoni K, Schiller GJ, Paquette R, Territo MC. Elimination of Aspergillus infection in allogeneic stem cell transplant recipients with long-term itraconazole prophylaxis: prevention is better than treatment. Blood. 2004. p. 1581; author reply 1582.

ITCZ群FLCZ群
投与方法点滴:200mg q24h
内用液:1回2.5mg/kgを1日3回
点滴or内服:400mg q24h
投与日程移植前処置〜day120までは必須。その後は、day180 or GVHD治療終了から4週後まで移植前処置〜day120までは必須。その後は、day180 or GVHD治療終了から4週後まで
深在性真菌症
ITT
13%16%
深在性真菌症
on-treatment
7%15%
糸状菌感染5%12%
カンジダ感染2%3%
消化器症状等
による中断
36%16%
Marr KA, Crippa F, Leisenring W, Hoyle M, Boeckh M, Balajee SA, et al. Itraconazole versus fluconazole for prevention of fungal infections in patients receiving allogeneic stem cell transplants. Blood. 2004;103: 1527–1533.

まとめ

まとめ
  1. ITCZのスペクトラムは、FLCZより少し広がり、アスペルギルス二相性真菌をカバーする。
  2. ITCZはABPAのPSL併用、CPPAの維持、真菌感染予防(推奨度は低い)、爪白癬へのパルス療法で用いる。
  3. ITCZは吸収率と移行性が悪い。吸収率を上げるために、内用液は空腹時(食間や就寝前)カプセル・錠剤は食直後に内服する。眼・中枢神経に移行しない。
  4. 例:治療で内用液20mL 1日2回予防で内用液20mL 1日1回、CCr<10で半減
  5. 副作用は消化器症状(嘔気・嘔吐・腹痛・下痢)13〜24%で、FLCZやPSCZより多い。肝障害7〜32%で、FLCZやPSCZと同様。腎障害5〜7%、皮疹4〜7%
  6. 代表的なCYP3A4阻害剤で、半減期も長いため要注意。P-gpも阻害する。

参考資料

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