2023年10月の臨床血液に「成人免疫性血小板減少症診断参照ガイド2023年版」が掲載されていました。
ついに、ITPの名称が変わりました!
そして、新しい診断基準が提唱されています!
大興奮のITP診断参照ガイドをじっくり読みながら、関連する話題を含めて、まとめてみます。
- ITPは、免疫性血小板減少症 immune thrombocytopenia に名称変更された。
- ITPの新しい診断基準では、TPOとRP%(またはIPF%)を活用する。
- ITP診断フローチャートは必見!
- タバリス等の新薬に期待!
ITPの診断に関するトピック
ITPは、免疫性血小板減少症 immune thrombocytopenia に名称変更
これまでは、ITP=特発性血小板減少性紫斑病 idiopathic thrombocytopenic purpuraでした。
これからは、ITP=免疫性血小板減少症 immune thrombocytopeniaになります!
すっきりしていいなと思いましたが、TTP=血栓性血小板減少性紫斑病との対比から遠ざかる点が若干気になりました。まぁ、疾患機序は別物ですが。
また、ITPもTTPも原則としては血小板・一次止血の疾患ですので、点状出血が主体であり、必ず紫斑を呈するというわけではないんですよね。もちろん紫斑を呈することもあります。
ITPの新しい診断基準では、TPOとRP%(またはIPF%)を活用
診断基準もシンプルになりました。
血小板<10万が出発点です。WBCとHbは原則正常です。異形成はありません。
積極的に、TPOとRP%(またはIPF%)で診断しにいきます。すでに多くの血液内科医は、このようにアプローチしていますので、診断基準が追認した形とも言えます。
やや大雑把ですが、下記の図式は重要です。実際にはITPではTPOは正常〜軽度上昇にとどまるというのが正確です。また、実際にITP症例で骨髄検査を行うと、巨核球が増加しているのは25%程度とも言われています。
免疫性血小板減少症(ITP) → 巨核球が増加 → TPOが低下
再生不良性貧血(AA) → 巨核球が減少 → TPOが上昇
除外診断は、特定疾患の臨床調査個人票も参考になります(上記の診断基準の記載とほぼ同じです)。
今回の新しい診断基準の特徴の一つは、マルク(骨髄穿刺・生検)を必須としない点です。
これまではITPでのマルクの役割は他疾患の除外にあると言われてきましたが、事実上必須に近い扱いでした。今回、診断基準で必須としないことが明記されたことで、ITP診療でマルクが行われない症例も増えていくと考えられます。
一方で、マルクが推奨される状況にも言及されていますので、まとめておきます。
- 血小板減少以外の血液学的異常所見(スメア所見を含む)
- 貧血
- 血球形態異常
- 幼若血球の出現
- 白血球数異常
- 好中球やリンパ球比率の異常
- MCV高値
- 脾腫
- リンパ節腫大
- 高齢(60〜65歳以上)
- 治療不応性
- TPO受容体作動薬使用前
ITP診断フローチャートは必見!
診断参照ガイドには、下記のフローチャートに加えて、とても詳しい解説が付いており、非常に勉強になります。
なお、下記に記載ない項目として、感染症(HIV・HBV・HCV・ピロリ)、クームス試験(AIHA + ITP = Evans)、甲状腺疾患の検索、抗体値の評価(IgG・IgA・IgM)も重要です。
GP特異的抗血小板抗体(産生B細胞)が早く保険収載されると良いですね。
ITPの治療に関するトピック
現在のITP治療フローチャート
下記が有名なフローチャートです。
血小板減少時は、PPIを服用して消化性潰瘍対策をすることもあろうかと思いますが、その際にはピロリ菌の感染検査に一部制約が出る点にも注意します。ITP診療においては血中抗体ないし便中抗原を用いることが多いかと思われます。
また1st lineのステロイドですが、最近はHD-DEX 40mg x4日間(高齢で半量)を用いることも増えてきました。
2nd lineの使い分けも、下記のごとく詳しい解説があります。
筆者は比較的リツキシマブを好みますが、2020年以降はCOVID-19の流行状況も加味する必要があります。
タバリス(ホスタマチニブ、Fostamatinib)
経口血小板破壊抑制薬とも、脾臓チロシンキナーゼ阻害薬とも、Syk阻害薬とも呼ばれています。
例えば、タバリス(100mg)2T/2x 朝夕後から開始し、4週間投与して、血小板5〜25万を目標として、タバリス(150mg)2T/2x 朝夕後に増量できます。内服のタイミングは、食後でなくても良いです。
奏効率は4割ほどと報告されており、決して高くはありませんが、海外phase 3がTPO-RAやRTXが半分くらい入っている患者層に対してであることを考えると、十分に治療選択肢として考慮してよいのではないかと考えます。
レスポンダー集団は、血小板10万以上に至るには時間がかかっていますが、効果の立ち上がりは比較的早いようです。
代表的な副作用は下痢と高血圧です。
なお、sovleplenibというSyk阻害薬もITPに有望だとの報告があります。今後の動向を注視したいと思います。
また、fostamatinibは、温式AIHAにも有望と報告されています。Kuter DJ, Rogers KA, Boxer MA, Choi M, Agajanian R, Arnold DM, et al. Fostamatinib for the treatment of warm antibody autoimmune hemolytic anemia: Phase 2, multicenter, open-label study. Am J Hematol. 2022;97: 691–699.
エフガルチギモド、Efgartigimod
商品名ウィフガードで重症筋無力症に対して既に活用されていますが、ITPにも効果が証明されています!
IgG抗体受容体を占領することで、フリーな抗体を増やし、その代謝を早めるという機序です。IVIgやステロイドパルス療法の作用機序と似ている部分があります。
レスポンダー集団は、血小板の増加幅はそれほどですが、2週以内という早い段階で効果が現れています。
代表的な副作用は、頭痛です。作用機序からは液性免疫不全が懸念されます。
まとめ
- ITPは、免疫性血小板減少症 immune thrombocytopenia に名称変更された。
- ITPの新しい診断基準では、TPOとRP%(またはIPF%)を活用する。
- ITP診断フローチャートは必見!
- タバリス等の新薬に期待!