PMR(リウマチ性多発筋痛症)の歴史

PMR(Polymyalgia Rheumatica, リウマチ性多発筋痛症)の歴史についてまとめます。

まとめ
  1. 1888年にBruceが初報告、1957年にBarberがPMRという病名を提唱しました。
  2. 2007年にPMR-AS、2012年にEULAR/ACR分類基準、2015年に原則と推奨が発表されました。
  3. 代表的なReviewは、Lancet 2017とJAMA 2020です。
  4. 抗IL-6抗体の研究が進んでいます。

初報告〜PMR(リウマチ性多発筋痛症)の提唱

1888
Bruceが”Senile Rheumatic Gout”を報告

60〜74歳の5人の患者について、リウマチとも痛風とも異なる、身体が痛いが、長期的には軽快する疾患として報告しました。Bruce W. Senile Rheumatic Gout. Br Med J. 1888;2: 811–813.

1945
Meulengrachtが”Periarthrosis Humeroscapularis”の2症例を報告

Bruceの報告から50年以上を経て、Meulengrachtが、肩痛・持続する発熱・体重減少・赤沈亢進を呈する2症例を報告しました。

1945年の原著は見つけられませんでした。PMRの歴史についてManzo C. Messages from the history of polymyalgia rheumatica. Reumatologia. 2021;59: 425–426.で詳述されている中に登場します。

1945
HolstとJohansenが”Peri-extra articular rheumatism”の5症例を報告

同じく1945年に、5人の女性が突然の肩・腕・股の痛みを呈し、動きが制限され、微熱が数週〜数か月続き、赤沈亢進し、やがて軽快したと詳細な報告がなされました。関節周囲の軟部組織に由来する痛みと考えられたようです。Holst JE, Johansen E. A special type of rheumatic disease. Acta Med Scand. 1945;122: 258–270.

1951
Kersleyが初めてステロイドで治療成功

バルセロナで開催された国際会議で発表しました。

1952
Meulengrachtらが”Periarthrosis Humeroscapularis”の78症例の疾患像を報告

1945年の報告から7年の時を経て、Meulengrachtらが78症例を平均3.2年フォローアップして報告しました。Meulengracht E, Schwartz M. The course and prognosis of periarthrosis humeroscapularis with special regard to cases with general symptoms. Acta Med Scand. 1952;143: 350–360.

現在のPMR分類基準を満たしていない症例も含まれていると考えられますが、50歳以上の女性に多いという特徴は共通です。

1957
Barberが”Polymyalgia Rheumatica”を提唱

12人をステロイドで治療して経過をまとめ、そして現在に通じる”Polymyalgia Rheumatica(リウマチ性多発筋痛症)“という病名を提唱しました。Barber HS. Myalgic syndrome with constitutional effects; polymyalgia rheumatica. Ann Rheum Dis. 1957;16: 230–237.

1960
Gordonが総括して病名を確立

文献から140例、自験例21例を総括しました。論文には、70歳の女性が治療前に両腕を挙上できなかったのが、治療後には両腕を挙上できるようになった写真が掲載されています。Gordon I. Polymyalgia rheumatica. A clinical study of 21 cases. Q J Med. 1960;29: 473–488.

Bruceの最初の報告から、Barberによるリウマチ性多発筋痛症の提唱まで、数々の病名が使われてきました。

Hunder GG. The early history of giant cell arteritis and polymyalgia rheumatica: first descriptions to 1970. Mayo Clin Proc. 2006;81: 1071–1083.

以上の歴史については下記の2報が詳しいです。

EULAR/ACRによる分類基準、原則と推奨の発表

2007
疾患活動性を評価するPMR-ASの提唱

オーストリアから疾患活動性の評価尺度PMR-AS(PMR Activity Score)が提唱されました。Leeb BF, Rintelen B, Sautner J, Fassl C, Bird HA. The polymyalgia rheumatica activity score in daily use: proposal for a definition of remission. Arthritis Rheum. 2007;57: 810–815.

2012
EULAR/ACRがPMRの分類基準を発表

45分超の朝のこわばり、RFとACPAの陰性が重要です。Dasgupta B, Cimmino MA, Maradit-Kremers H, Schmidt WA, Schirmer M, Salvarani C, et al. 2012 provisional classification criteria for polymyalgia rheumatica: a European League Against Rheumatism/American College of Rheumatology collaborative initiative. Ann Rheum Dis. 2012;71: 484–492.

2015
EULAR/ACRが原則と推奨を発表

下記におおまかにまとめます。Dejaco C, Singh YP, Perel P, Hutchings A, Camellino D, Mackie S, et al. 2015 Recommendations for the management of polymyalgia rheumatica: a European League Against Rheumatism/American College of Rheumatology collaborative initiative. Ann Rheum Dis. 2015;74: 1799–1807.

  • 除外すべき疾患:非炎症性、炎症性(巨細胞性動脈炎や関節リウマチ等)、薬剤性、内分泌、感染、腫瘍
  • 検査:RF、ACPA、CRP、ESR、血算、血糖、肝腎機能、Ca、ALP、尿、蛋白電気泳動、TSH、CK、Vit.D、ANA、ANCA、Tb、CXR
  • 注意する併存症:高血圧、糖尿病、心血管疾患、脂質異常症、消化性潰瘍、骨粗鬆症・骨折、白内障、緑内障、慢性・再発感染
  • 注意する内服薬:NSAIDs
  • 再発難治のリスク:女性、ESR1時間値>40mm、末梢性関節炎
  • フォロー間隔:1年目は4〜8週毎、2年目は8〜12週毎
  • ステロイド:12.5〜25mgで開始、4〜8週で10mgまで減量、4週で1mgずつ漸減、再燃したら再燃前まで戻す
  • MTX:週7.5〜10mg
  • TNFα阻害薬:推奨しない
  • 漢方薬:推奨しない

PMR-AS、分類基準、原則と推奨を抑えておく必要があります。

さらに詳細な部分については、大阪大学がまとめてくださっています。

JHNにもPMRの再燃・再発時のまとめがあり、分類基準にも言及されています。

LancetとJAMAに総説あり

2017
Lancet 2017

ポイントを数点まとめます。González-Gay MA, Matteson EL, Castañeda S. Polymyalgia rheumatica. Lancet. 2017;390: 1700–1712.

  • 巨細胞性動脈炎(GCA)を疑うのはESR高値、新頭痛、頭皮圧痛、視力障害がある時です。もしも合併の場合には初期ステロイドは40〜60mgを使います。
  • PMRの診断にエコーが役立ちます。
2020
JAMA 2020

ポイントを数点まとめます。Buttgereit F, Matteson EL, Dejaco C. Polymyalgia Rheumatica and Giant Cell Arteritis. JAMA. 2020;324: 993–994.

  • 巨細胞性動脈炎(GCA)の診断にPET/CT検査が有用です。
  • GCAにトシリズマブが有効です。

詳細は西伊豆健育会病院の仲田先生がまとめてくださっています(2022年と2017年)。

抗IL-6抗体の研究が進んでいる

2022
新規発症PMRにトシリズマブが有効(PMR-SPARE試験)

新規発症PMRに対して、ステロイドは11週間で20mg→0mgとし、トシリズマブ162mg週1回皮下注を加える群(N=19)とプラセボ群(N=17)で比較。16週目にステロイドなし寛解率を比較してトシリズマブ群63.2%、プラセボ群11.8%と有効性を示しました。Bonelli M, Radner H, Kerschbaumer A, Mrak D, Durechova M, Stieger J, et al. Tocilizumab in patients with new onset polymyalgia rheumatica (PMR-SPARE): a phase 2/3 randomised controlled trial. Ann Rheum Dis. 2022;81: 838–844.

2022
再発PMRにトシリズマブが有効(SEMAPHORE試験)

再発性PMR患者100人を対象としたランダム化比較試験で、トシリズマブの静脈内投与群(8mg/kg 4週に1回)は、プラセボ群よりも、24週時点で疾患活動性とグルココルチコイド用量減少を達成する可能性が高く(67.3% vs 31.4%) 、より多くの患者でステロイドが中止されました(49% vs 19.6%)。両群で最も頻繁に発生した有害事象は感染症でした(46.9% vs 39.2%)。Devauchelle-Pensec V, Carvajal-Alegria G, Dernis E, Richez C, Truchetet M-E, Wendling D, et al. Effect of Tocilizumab on Disease Activity in Patients With Active Polymyalgia Rheumatica Receiving Glucocorticoid Therapy: A Randomized Clinical Trial. JAMA. 2022;328: 1053–1062.

2023
再発PMRにサリルマブが有効(SAPHYR試験)

再発性PMR患者118人を対象とした無作為化試験において、IL-6阻害薬サリルマブを2週毎に200mgずつ皮下注した群は、プラセボ群よりも持続寛解率が高く(28%対10%)、寛解達成後の再発も少ないとの結果でした。Spiera RF, Unizony S, Warrington KJ, Sloane J, Giannelou A, Nivens MC, et al. Sarilumab for Relapse of Polymyalgia Rheumatica during Glucocorticoid Taper. N Engl J Med. 2023;389: 1263–1272.

ちなみに本試験はCOVID-19により、予定していた患者数が集まることなく、途中で終了されています。

2023年10月現在、日本ではトシリズマブは巨細胞性動脈炎に対して保険適用となっていますが、リウマチ性多発筋痛症に対してではない点に注意が必要です。サリルマブはGCAにもPMRにも保険適用となっていません。

まとめ

NEJM 2023にサリルマブの上記試験が掲載されていて興味が湧き、PMRの歴史を紐解いてみました。今後のPMR診療の進歩に注目していきたいと思います。

まとめ
  1. 1888年にBruceが初報告、1957年にBarberがPMRという病名を提唱しました。
  2. 2007年にPMR-AS、2012年にEULAR/ACR分類基準、2015年に原則と推奨が発表されました。
  3. 代表的なReviewは、Lancet 2017とJAMA 2020です。
  4. 抗IL-6抗体の研究が進んでいます。

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