ポサコナゾール(英語:Posaconazole 略称:PSCZ 商品名:ノクサフィル)の特徴と投与方法をまとめます。
- PSCZはカンジダ、アスペルギルス、ムーコル、トリコスポロン、スケドスポリウム、クリプトコックスをカバーし、フサリウムをカバーしない。VRCZはムーコルをカバーせず、フサリウムをカバーする。
- PSCZは中枢神経に届きにくい。TDMは保険適応なし。
VRCZは中枢神経に届き、TDMが可能である。 - PSCZは初日のみローディングが必要。PSCZは食後で良いが、VRCZは空腹時。
1日目 ノクサフィル(100mg) 6T/2x 朝夕後
2日目〜ノクサフィル(100mg) 3T/1x 朝後 - PSCZ点滴は添加剤SBECDの腎への蓄積毒性に注意。用量は内服と同様。
1日目 ノクサフィル 300mg + 生食250mL 1日2回 中心静脈に90分でdiv
2日目〜ノクサフィル 300mg + 生食250mL 1日1回 中心静脈に90分でdiv - 消化器症状・肝障害・偽性アルドステロン症での低K血症に注意する。
- CYP3A4を強く阻害し、Tac・CsA・VCR・CY・VEN・Pona・Ruxo等の濃度を上げる。
- PSCZはAML/MDSの好中球減少期、移植後のGVHD発症期に真菌感染予防としてエビデンスが確立されている。
PSCZの位置付け
PSCZのスペクトラム:VRCZとの違いはムーコル・フサリウム
PSCZのカンジダへのスペクトラムは、FLCZやITCZより広がりますが、VRCZと同様です。C. krusei の出現頻度は2〜4%、C. guilliermondii の出現頻度は0.5〜1%と低く、カンジダのみをターゲットとしてPSCZを用いる場面は限定的です。山口英世. 病原カンジダ菌種の多様化とその医真菌学的インパクト. モダンメディア 2012;58:261
FLCZで難治性の口腔カンジダや食道カンジダにPSCZが有効なことがあります。
出現頻度[%] | FLCZ | ITCZ | VRCZ | PSCZ | |
---|---|---|---|---|---|
C. albicans | 40-60 | ||||
C. parapsilosis | 5-30 | ||||
C. tropicalis | 5-30 | ||||
C. krusei | 2-4 | ||||
C. glabrata | 5-30 | ||||
C. lusitaniae | 0.5-1 | ||||
C. kefyr | 0.5-1 | ||||
C. guilliermondii | 0.5-1 | ||||
C. auris | <0.01 |
PSCZのアスペルギルスへのスペクトラムは、ITCZより広がりますが、VRCZと同様です。VRCZはL-AMBへの優越性が示されていますが、PSCZはVRCZと非劣性であることが示されています。ただし、PSCZは中枢神経には移行しないため、病変分布に注意が必要です。
FLCZ | ITCZ | VRCZ | PSCZ | |
---|---|---|---|---|
A. fumigatus | ||||
A. flavus | ||||
A. niger | ||||
A. terreus |
カンジダやアスペルギルスへのスペクトラムはVRCZとPSCZで同様ですが、希少深在性真菌症へのスペクトラムでは違いがあります。
VRCZはムーコルをカバーしませんが、PSCZはムーコルをカバーします。
ムーコルの治療データはL-AMBのほうが充実しており、PSCZはムーコルにスペクトラムはありますが治療データは乏しいため第二選択です。L-AMBは点滴しかありませんので、内服への切り替えとしてPSCZが重要です。
VRCZはフサリウムをカバーしますが、PSCZはフサリウムをカバーしません。
PSCZは発売当初はフサリウムに活性があるとされていましたが、臨床的には無効と考えられています。フサリウムにはVRCZとL-AMBの併用療法が推奨されています。
FLCZ | ITCZ | VRCZ | PSCZ | MCFG | L-AMB | |
---|---|---|---|---|---|---|
ムーコル | ||||||
フサリウム | ||||||
トリコスポロン | ||||||
スケドスポリウム | ||||||
クリプトコックス |
PSCZのTDM・吸収率・移行性
VRCZはTDMでトラフ濃度を1〜4μg/mLの範囲に調整しますが、PSCZは2024年1月現在は日本でTDMが承認されていません。ただし、PSCZもTDMが推奨されており、トラフ濃度を予防で0.75μg/mL以上、治療で1μg/mL以上にするのが望ましいとされています。
※ なお、トラフ濃度については文献により記載が異なり、2020年EUCASTでは予防で0.7μg/mL以上、治療で1.25μg/mL以上と記載されていました。Arendrup MC, Friberg N, Mares M, Kahlmeter G, Meletiadis J, Guinea J, et al. How to interpret MICs of antifungal compounds according to the revised clinical breakpoints v. 10.0 European committee on antimicrobial susceptibility testing (EUCAST). Clin Microbiol Infect. 2020;26: 1464–1472.
VRCZは用量に幅がありますが、PSCZは初日600mg/2x、2日目〜300mg/1xと固定量です。2024年1月現在の日本では、PSCZのTDMができない分、投与方法はシンプルです。
VRCZはTDMが可能、PSCZはTDMが不可能(2024年1月現在)
吸収率について、VRCZは9割、PSCZは5割とされています。どちらも経口薬で十分に使用可能です。
移行性について、VRCZは良好、PSCZは不良です。FLCZは良好、ITCZは不良であり、各々似ています。
VRCZは中枢神経に届き、PSCZは中枢神経に届きません。
PSCZの投与方法
PSCZ 内服
剤型は100mg錠です。1錠で約2900円、3錠で約8700円です。
初日のみローディングを行います。原則として固定量です。VRCZは空腹時ですが、PSCZは食後でOKです。
1日目 ノクサフィル(100mg)6T/2x 朝夕後
2日目〜ノクサフィル(100mg)3T/1x 朝後
PSCZ 点滴
剤型は300mg/16.7mLです。1Vで約27000円で、1日あたりの薬価は錠剤の3倍以上です。
初日のみローディングを行います。原則として固定量です。溶媒は生食と5%ブドウ糖250mLが可ですが、乳酸リンゲル液、5%ブドウ糖加乳酸リンゲル液、4.2%炭酸水素ナトリウム注射液とは配合変化があります。
なお、中心静脈からの投与と規定されている理由は、末梢静脈からの投与で血栓性静脈炎が6割で生じたためです。注射液のpHが2.6と低いことと関連する可能性が指摘されています。
1日目 ノクサフィル300mg+生食250mL 1日2回 中心静脈に90分でdiv
2日目〜ノクサフィル300mg+生食250mL 1日1回 中心静脈に90分でdiv
腎障害・肝障害・肥満
腎障害・肝障害での用量調整は不要です。ただし、腎障害では点滴を避けます。特にCCr<50mL/minでは点滴は原則行いません。添加剤スルホブチルエーテルβ−シクロデキストリンナトリウム(SBECD)の蓄積毒性があるためです。
添付文書では低体重と体重120kg以上で注意を促していますが、用量調整の規定はありません。
PSCZの副作用・相互作用
PSCZの副作用
VRCZでは投与開始時期に一過性に視覚障害が生じることが多いですが、PSCZは副作用が比較的少ないです。
PSCZでは他のアゾール系と同様に消化器症状と肝障害に注意します。特徴的な副作用として偽性アルドステロン症による低カリウム血症が知られています。
稀ですが、QTc延長、副腎不全等も副作用として報告されています。
PSCZの相互作用
PSCZはCYP3A4を強く阻害します。
VRCZとは異なり、CYP2C19への影響はありません。
TacやCsAとの相互作用は、FLCZよりも強いです。
VCRと相互作用があり、併用時はイレウスに注意を要します。
CYと相互作用があり、高用量CY投与前にPSCZを3〜4日間は休薬し、高用量CY投与後24時間以降で再開します。PSCZは定常状態からの半減期が25時間です。ITCZは39時間、VRCZは6〜9時間で、PSCZはその中間です。
VENの濃度を上げます。VENの減量規定が細かく設定されています。
PSCZの添付文書に記載がありませんが、Ponaも要注意です。Ph+ALLの移植後維持療法でPonaを使うことがありますが、PSCZはCYP3A4阻害によりPonaの濃度を上げる可能性があります。特に心筋梗塞や脳梗塞等の血栓性有害事象を懸念し、抗血小板薬の併用が考慮されます。
PSCZの添付文書に記載がありませんが、Ruxoも要注意です。特に近年、ステロイド抵抗性GVHDではRuxoが用いられることが多いですが、その際の真菌感染予防はPSCZを使っていることが多い状況かと考えられます。このような場合にはRuxo投与量をやや減量する方向で、例えばジャカビ(5mg) 2T/2x 朝夕後に留める等の調整が考慮されます。
なお併用禁忌に一部のスタチン系や眠剤など頻用薬も含まれていますので、必ず確認します。
PSCZのエビデンス
AML/MDSでの真菌感染予防(Cornelyらの試験、NEJM 2007)
VRCZは侵襲性アスペルギルス症に対して、L-AMBとの比較で、治療としてのエビデンスを確立しました。それに対して、PSCZはVRCZとの非劣性を示した治療でのエビデンスもありますが、特に予防でのエビデンスを確立しています。
Cornelyらは、急性骨髄性白血病や骨髄異形成症候群に対して化学療法中の好中球減少期に、PSCZと対照群(FLCZ or ITCZ)を真菌感染予防として比較し、侵襲性真菌症・侵襲性アスペルギルス症発症率がPSCZ群のほうが低かったことを報告しています。
PSCZ | 対照群 | |
---|---|---|
症例数 | 304例 | 298例 |
介入 | PSCZ経口懸濁液 600mg/day | FLCZ 400mg/day or ITCZ内用液 400mg/day |
Primary Endpoint 侵襲性真菌症 | ||
侵襲性アスペルギルス症 | ||
Safety 重篤な有害事象 | ||
主な有害事象 | 消化器症状 | 消化器症状 |
GVHD発症期の真菌感染予防(Ullmannらの試験、NEJM 2007)
上記論文と同じく、NEJM 2007年356巻にはGVHD発症期の真菌感染予防の比較試験結果も掲載されました。
Ullmannらは、GVHD発症期(ステロイド、抗胸腺グロブリン等を使用)に、PSCZとFLCZを真菌感染予防として比較し、侵襲性アスペルギルス症発症率がPSCZ群のほうが低かったことを報告しています。
PSCZ | FLCZ | |
---|---|---|
症例数 | 301例 | 299例 |
介入 | PSCZ経口懸濁液 600mg/day | FLCZ 400mg/day |
Primary Endpoint 侵襲性真菌症 | 5.3% | 9.0% |
侵襲性アスペルギルス症 | ||
Safety 重篤な有害事象 | 13% | 10% |
主な有害事象 | 消化器症状 | 消化器症状 |
アスペルギルスに対するITCZ・VRCZ・PSCZ耐性率
様々な研究がありますが、総じてA. niger のITCZ耐性率はやや高いです。Hagiwara D, Watanabe A, Kamei K, Goldman GH. Epidemiological and Genomic Landscape of Azole Resistance Mechanisms in Aspergillus Fungi. Front Microbiol. 2016;7: 1382.
数千株を調べた研究によると、アスペルギルスに対するITCZ・VRCZ・PSCZ耐性率は下記のように報告されています。
ITCZ | VRCZ | PSCZ | |
---|---|---|---|
A. fumigatus | 2.6% | 3.1% | 2.2% |
A. flavus | 0.7% | 2.0% | 5.6% |
A. niger | 1.0% | 5.2% | |
A. terreus | 0% | 3.0% | 0.3% |
まとめ
- PSCZはカンジダ、アスペルギルス、ムーコル、トリコスポロン、スケドスポリウム、クリプトコックスをカバーし、フサリウムをカバーしない。VRCZはムーコルをカバーせず、フサリウムをカバーする。
- PSCZは中枢神経に届きにくい。TDMは保険適応なし。
VRCZは中枢神経に届き、TDMが可能である。 - PSCZは初日のみローディングが必要。PSCZは食後で良いが、VRCZは空腹時。
1日目 ノクサフィル(100mg) 6T/2x 朝夕後
2日目〜ノクサフィル(100mg) 3T/1x 朝後 - PSCZ点滴は添加剤SBECDの腎への蓄積毒性に注意。用量は内服と同様。
1日目 ノクサフィル 300mg + 生食250mL 1日2回 中心静脈に90分でdiv
2日目〜ノクサフィル 300mg + 生食250mL 1日1回 中心静脈に90分でdiv - 消化器症状・肝障害・偽性アルドステロン症での低K血症に注意する。
- CYP3A4を強く阻害し、Tac・CsA・VCR・CY・VEN・Pona等の濃度を上げる。
- PSCZはAML/MDSの好中球減少期、移植後のGVHD発症期に真菌感染予防としてエビデンスが確立されている。