リコモジュリン(一般名:トロンボモデュリンアルファ 英語:thrombomodulin alpha, recombinant human soluble thrombomodulin 略称:rTM, rhTM, rhsTM)の投与方法をまとめます。
- 腎障害なしでリコモジュリン 380 U/kg x 体重 + 生食100mL 1日1回30分で点滴
- 腎障害ありでリコモジュリン 130 U/kg x 体重 + 生食100mL 1日1回30分で点滴
- 6日間まで
リコモジュリン1Vは…?
リコモジュリンは、1V=12800単位、4万円です。
添付文書で具体的に投与方法が規定されています。
リコモジュリン点滴静注用12800 添付文書
- 1日1回380U/kgを約30分かけて点滴静注する。なお、症状に応じ適宜減量する。
- 本剤の臨床試験及び使用成績調査において、7日間以上の投与経験は少なく、本剤を7日間以上投与した場合の有効性及び安全性は確立していない。
- 重篤な腎機能障害のある患者には、患者の症状に応じ、適宜130U/kgに減量して投与すること。本剤は主として腎臓から排泄される。本剤130U/kgは、DIC患者を対象とした臨床試験(用量設定試験)において有効性が認められた用量である。
- 1バイアル(12,800U)当り2mLの日局生理食塩液又は日局ブドウ糖注射液(5%)で溶解する。この溶液から患者の体重にあわせて必要量をとり同一の溶解液100mLに希釈し、点滴静注する。
リコモジュリンは、旭化成ファーマから発売されている、遺伝子組み換え型ヒト可溶性トロンボモジュリンです。
通常、トロンボモジュリンは血管壁から昆布のように突出していますが、可溶性、つまり血管内遊離体としての薬剤です。
トロンビンとトロンボモジュリン(トロンビンをmodulate 調節する)が複合体を形成すると、トロンビンの凝固作用が抑制されます。その他、抗炎症作用もあると報告されています。
リコモジュリンの用量計算
旭化成ファーマのウェブサイトに投与量計算ツールがあります。これを使うのが手っ取り早いです。
「計⭐mLを同一溶液100mLに希釈し、点滴静注する」と計算されますので、オーダーするリコモジュリンの単位数は⭐mL x 6400 U/mLで計算するとキリが良くなります。
腎障害なし = 380 U/kg の場合
体重 | 体重 x 380U/kg | バイアル | バイアル x 12800U/V |
---|---|---|---|
10kg | 3800U | 0.3 | 3840U |
20kg | 7600U | 0.6 | 7680U |
30kg | 11400U | 0.9 | 11520U |
40kg | 15200U | 1.2 | 15360U |
50kg | 19000U | 1.5 | 19200U |
60kg | 22800U | 1.8 | 23040U |
70kg | 26600U | 2.1 | 26880U |
80kg | 30400U | 2.4 | 30720U |
90kg | 34200U | 2.7 | 34560U |
100kg | 38000U | 3.0 | 38400U |
腎障害あり = 130 U/kg の場合
腎障害なしの場合と比較して、投与量は約3分の1になります。
ただし、添付文書にも「重篤な」腎障害と記載されているように、軽度の腎障害で減量すると十分な血漿中濃度に上昇せず、効果が期待できません。減量するのは、あくまで重篤な腎障害に限られます。
体重 | 体重 x 130U/kg | バイアル | バイアル x 12800U/V |
---|---|---|---|
10kg | 1300U | 0.1 | 1280U |
20kg | 2600U | 0.2 | 2560U |
30kg | 3900U | 0.3 | 3840U |
40kg | 5200U | 0.4 | 5120U |
50kg | 6500U | 0.5 | 6400U |
60kg | 7800U | 0.6 | 7680U |
70kg | 9100U | 0.7 | 8960U |
80kg | 10400U | 0.8 | 10240U |
90kg | 11800U | 0.9 | 11520U |
100kg | 13000U | 1.0 | 12800U |
リコモジュリンの副作用
ずばり出血です。
旭化成ウェブサイトより統合製品情報概要を参照し、副作用に関する記載を引用します。
リコモジュリン点滴静注用12800 統合製品情報概要
- 重大な副作用として、出血:頭蓋内出血、肺出血、消化管出血等の重篤な出血が報告されています。
- 主な副作用として、穿刺部位出血、血清AST上昇、血清ALT上昇(5%以上)が報告されています。
リコモジュリンのエビデンス
敗血症性凝固障害へのrTMは、プラセボと有意差なし(SCARLET試験)
敗血症性凝固障害(PT-INR>1.4、血小板3〜15万/μLあるいは24時間以内に30%以上低下、呼吸不全or循環不全あり)に対する、リコモジュリン vs プラセボの国際多施設二重盲検ランダム化比較試験(SCARLET試験)の結果が2019年JAMAで報告されました。
リコモジュリン | プラセボ | |
---|---|---|
介入方法 | 380 U/kg/day divを6日間 | 生食 50mL/15分 div |
Primary Outcome 28日全死亡率 | ||
Safety 28日以内の重篤な出血 |
Post hoc 解析で、直前に凝固障害が確認された群、TAT>10ng/mL、PC<40%、ヘパリン非投与の群では、リコモジュリンが優れる傾向にあったとしています。
SCARLET2試験は計画はされているようですが、2023年現在なかなか新しい情報が入ってきません。
Sepsis-DIC、重症群ではrTMを含む抗凝固療法のメリットあり(J-SEPTIC DIC研究)
日本の敗血症2663例の後方視的研究があり、rTMのメリットが有る群が下記のように見出されています。Yamakawa K, Umemura Y, Hayakawa M, Kudo D, Sanui M, Takahashi H, et al. Benefit profile of anticoagulant therapy in sepsis: a nationwide multicentre registry in Japan. Crit Care. 2016;20: 229.
敗血症に対する、rTMを含む抗凝固療法のメリットがあるのは、DIC群とハイリスク群(SOFA 13-17点)のみ
軽症でもなく最重症でもなく、かつDICの要素がある群が良い適応なのかもしれません。
血液悪性腫瘍と感染症のDICに対して、rTMはヘパリンよりもDIC離脱率を改善(ART-123試験)
血液悪性腫瘍と感染症のDIC224例(厚労省基準)に対して、リコモジュリン vs 未分画ヘパリンを比較した日本の多施設共同二重盲検ランダム化比較試験があります。日本血栓止血学会の「科学的根拠に基づいた感染症に伴うDIC治療のエキスパートコンセンサスの追補」で採り上げられています。
リコモジュリン | 未分画ヘパリン | |
---|---|---|
介入方法 | 380 U/kg/day divを6日間 | 8 U/kg/hr civを6日間 |
Primary Outcome DIC離脱率 | ||
出血症状の消失率 | ||
28日死亡率 | ||
Safety 出血の有害事象 |
Primary endpointのDIC離脱率では有意差がつきましたが、ソフトアウトカムである点に注意します。ハードアウトカムである死亡率では有意差はついていません。海外のphase3の多くは28日死亡率をprimary endpointに設定しています。DIC離脱率は日本で頻用されていますが、適切ではないという意見もあります。
死亡率では有意差がついていません。
また対照群の未分画ヘパリン(UFH)ですが、日本血栓止血学会の「科学的根拠に基づいた感染症に伴うDIC治療のエキスパートコンセンサス」では、UFHは大血管の血栓合併以外での推奨度はC〜Dに留まっています。
さらに、ヘパリンの投与量ですが、8U/kg/hrということは、体重50kgで1日あたり 8 x 50 x 24 = 9600 単位です。ヘパリンは通常1万〜3万単位/日程度で用いられますので、9600単位/日ではAPTT延長効果は小さいと考えられます。
まとめ
腎障害なしで、体重100kgの時、3V=38400単位がちょうどよいです。
腎障害ありで、体重100kgの時、1V=12800単位がちょうどよいです。
- 腎障害なしでリコモジュリン 380 U/kg x 体重 + 生食100mL 1日1回30分で点滴
- 腎障害ありでリコモジュリン 130 U/kg x 体重 + 生食100mL 1日1回30分で点滴
- 6日間まで