バソプレシンの投与方法と用量計算

敗血症性ショックにおけるバソプレシン(英語:Arginine vasopressin 略称:AVP 商品名:ピトレシン)の投与方法をまとめます。

まとめ
  1. ピトレシンは、敗血症性ショックに対して、1.0〜2.0 U/h で使
  2. ピトレシン2A+生食38mL(40U / 40mL)で、1.0〜2.0 mL/h で使う
  3. ピトレシン5A+生食45mL(100U / 50mL)で、0.5〜1.0 mL/h で使う
  4. ピトレシン1単位のローディング投与が有効(VALOR study)

バソプレシン(ピトレシン)の形は…?

ファイザーから発売されていて、ピトレシン 1A=20単位/1mLです。

あれ、ピトレシンって敗血症に保険通っている?

敗血症性ショックに対して当たり前のように使うので、ちょっと意外なのですが、通っていないんですね。

<食道静脈瘤出血の緊急処置>
通常、成人にはバソプレシンとして20単位を5%ブドウ糖液など100〜200mLに混和し、0.1〜0.4単位/分の注入速度で持続的に静脈内注射する。なお、年齢、症状に応じ適宜増減する。

ピトレシン注射液20 添付文書

上記は、ピトレシンを敗血症性ショックに使う時と投与方法が異なります。

次に、SSCG2021(Surviving Sepsis Campaign Guideline 2021)からバソプレシンに関する記載をいくつかピックアップしてみます。

  • For adults with septic shock on norepinephrine with inadequate MAP levels, we suggest adding vasopressin instead of escalating the dose of norepinephrine
  • In our practice, vasopressin is usually started when the dose of norepinephrine is in the range of 0.25–0.5 μg/kg/min
  • Unlike most vasopressors, vasopressin is not titrated to response, but it is usually administered at a fixed dose of 0.03 units/min for the treatment of septic shock. In clinical trials, vasopressin was used up to 0.06 units/min
  • Higher doses of vasopressin have been associated with cardiac, digital, and splanchnic ischaemia
Evans L, Rhodes A, Alhazzani W, Antonelli M, Coopersmith CM, French C, et al. Surviving sepsis campaign: international guidelines for management of sepsis and septic shock 2021. Intensive Care Med. 2021;47: 1181–1247.

SSCG2021では、このように 0.03 U/min = 1.8 U/h ≒ 2.0 U/h の固定用量の記載があります。

ノルアドレナリン 0.25〜0.5γに達した時のバソプレシン追加を推奨しています。

ちなみに、後述するように、日本発のアイディアであるローディング投与もおすすめで、院内コンセンサスを形成しておくと良さそうです。

一般的に、敗血症性ショックに対して、ピトレシンは、1.0〜2.0 U/h で使います。

ノルアドレナリン、ドブタミン、ドパミン等と異なり、体重では調節しません。

バソプレシン=Vaso(管)+Press(圧迫)+inから想像されるように、血管収縮作用がメインです。

V1受容体が血管平滑筋に、V2受容体が腎集合管に分布します。

V1受容体が活性化→血管収縮→血圧上昇の機序で働きます。血管拡張による血圧低下、つまり敗血症性ショックに好適応です。

なお、V2受容体が活性化→抗利尿作用の機序でも働きます。これをブロックするのが、トルバプタン(サムスカ、サムタス)です。

バソプレシン(ピトレシン)の代表的な投与方法

2A組成の場合

ピトレシン2A(40単位 / 2mL)+ 生食38mL = 40単位 / 40mLで、1単位 / 1mLになります。

単位/hとmL/hの対応関係が下記のようにシンプルで分かりやすいため、多くの病院で採用されています。

単位 / hmL / h
0.5 U/h0.5 mL/h
1.0 U/h1.0 mL/h
1.5 U/h1.5 mL/h
2.0 U/h2.0 mL/h

5A組成の場合

ピトレシン5A(100単位 / 5mL)+ 生食45mL = 100単位 / 50mLで、2単位 / 1mLになります。

精密持続静注のシリンジが50mLなので、この組成で用いる病院もあります。

単位 / hmL / h
0.6 U/h0.3 mL/h
1.0 U/h0.5 mL/h
1.6 U/h0.8 mL/h
2.0 U/h1.0 mL/h

バソプレシンの副作用

V1受容体が血管平滑筋を収縮させ、強心作用がない点が特徴なので、副作用として冠血流低下→心筋虚血、腸管血流低下→腸管虚血が懸念されます。

添付文書には、重大な副作用として、ショック、心不全、心拍動停止、精神錯乱、昏睡、水中毒、中枢性神経障害、無尿、心室頻拍が記載されています。

その他の副作用として、下記が挙げられています。

その他の副作用頻度不明
過敏症発疹、蕁麻疹、潮紅
循環器心筋虚血、心室性期外収縮、冠動脈攣縮、血管攣縮、胸痛、徐脈、不整脈、動悸、体温下降、血圧上昇
呼吸器気管支攣縮、呼吸困難、喘鳴
精神神経系頭痛、めまい、失神、不安、嗜眠、振戦
消化器悪心・嘔吐、下痢、腹痛、排便切迫、おくび、鼓腸、腹鳴、腸管痙攣
子宮子宮収縮、月経過多
その他乏尿、衰弱、脱力感、体重増加、皮膚蒼白、皮膚壊死、悪寒、発熱、発汗
ピトレシン注射液20 添付文書

バソプレシンのエビデンス

バソプレシン1単位のローディング投与が有効(VALOR study)

日本発のエビデンスです!

バソプレシンの血圧上昇効果は、濃度50pg/mL以上で達成されることに着目した試験です。

ボーラス投与量について、50 mU/kgで投与すると腸管虚血の発生率が高いとのこと。そこで本試験ではボーラス投与量を1単位に設定しています。

ノルアドレナリン0.2γ以上を投与されている敗血症性ショック患者を対象として、バソプレシン1単位をボーラス投与し、その後バソプレシン1U/hで持続投与しました。

バソプレシン1Uボーラス投与に反応した群(ボーラス投与後3〜5分で平均血圧が22mmHg以上上昇)は、その後の持続投与での血圧上昇を予測でき、かつ反応群でカテコラミン使用量が少なかったと報告されています。Nakamura K, Nakano H, Ikechi D, Mochizuki M, Takahashi Y, Koyama Y, et al. The Vasopressin Loading for Refractory septic shock (VALOR) study: a prospective observational study. Crit Care. 2023;27: 294.

ノルアドレナリンとバソプレシン併用時の減量は、ノルアドレナリンから? バソプレシンから?

ノルアドレナリンとバソプレシンの併用を要するほどの敗血症性ショックの回復期に、ノルアドレナリンから減量するべきか、バソプレシンから減量するべきか、という順序問題は2023年現在、議論が続いています。

単施設でのRCTがあり、バソプレシンから先に減量すべきと主張しています。しかし、ノルアドレナリンの減量法が1時間あたり0.1γずつ減量という高速減量法であったためか、ノルアドレナリンから減量した群で低血圧が頻発しました。このRCTの教訓としてはノルアドレナリンの減量で0.1γ/hのような高速減量は危険であるという点だと考えられます。Jeon K, Song J-U, Chung CR, Yang JH, Suh GY. Incidence of hypotension according to the discontinuation order of vasopressors in the management of septic shock: a prospective randomized trial (DOVSS). Crit Care. 2018;22: 131.

また半減期がバソプレシンのほうがノルアドレナリンより長いことを加味して、バソプレシンから先に減量すべきという薬理学的観点からの意見もあります。

2023年現在、UpToDateではバソプレシンを先に減量すると記載されています。

  • When weaning, we generally attempt to wean off vasopressin before norepinephrine.
  • Based upon clinical experience, hypotension appears to be common following withdrawal of vasopressin. To avoid this, the dose can be slowly tapered by 0.01 units/minute every 30 to 60 minutes
UpToDate “Use of vasopressors and inotropes” accessed at 2023/10/12

一方で、複数のレトロスペクティブ研究では、ノルアドレナリンから先に減量すべきと主張しています。500人を超える研究や2000人を超える研究もあり、レトロスペクティブとはいえ、一定の重要性のあるデータと考えます。Bhattacharjee S, Maitra S. Vasopressor weaning in sepsis: Debate is being continued! J Anaesthesiol Clin Pharmacol. 2023;39: 497–498.

敗血症性ショックに対するノルアドレナリン vs バソプレシン

VASST試験とVANISH試験がバソプレシンの主要な研究です。

VASST試験では、ノルアドレナリン5μg/min以上を使っている敗血症性ショックの患者に対して、バソプレシン0.01〜0.03U/minを追加する群と、ノルアドレナリンを増量する群に分けて解析しています。Primary endpointの28日死亡率では有意差はありませんでした。サブグループ解析で、ランダム割付時にノルアドレナリン使用量が15μg/min未満(5〜14μg/min)の時に、バソプレシンを追加した群では、90日死亡率が低いという結果が出ました。Russell JA, Walley KR, Singer J, Gordon AC, Hébert PC, Cooper DJ, et al. Vasopressin versus norepinephrine infusion in patients with septic shock. N Engl J Med. 2008;358: 877–887.

ノルアドレナリン 15μg/minは、体重50kgなら、15 / 50 = 0.3 μg/kg/min[γ] 相当です。SSCG2021でも言及されているように、ノルアドレナリン 0.3γに近くなってくるとバソプレシンを追加するプラクティスは一般的ですが、こういった研究が基礎の一つになっています。

VANISH試験は、敗血症性ショックに対する、ノルアドレナリンvsバソプレシン、ステロイド有無での2×2の4群比較です。28日死亡率や腎障害での有意差はありませんでした。バソプレシン群で腎代替療法の使用が減少しました。Gordon AC, Mason AJ, Thirunavukkarasu N, Perkins GD, Cecconi M, Cepkova M, et al. Effect of Early Vasopressin vs Norepinephrine on Kidney Failure in Patients With Septic Shock: The VANISH Randomized Clinical Trial. JAMA. 2016;316: 509–518.

どちらの試験も少々微妙な結果ではあります。結局、バソプレシンの意義とは?と考えさせられますが、少なくともノルアドレナリン総投与量を減らせるのは確かです。SSCG2021では端的にこのようにまとめられています。

Both VANISH and VASST demonstrated a catecholamine-sparing effect of vasopressin

Evans L, Rhodes A, Alhazzani W, Antonelli M, Coopersmith CM, French C, et al. Surviving sepsis campaign: international guidelines for management of sepsis and septic shock 2021. Intensive Care Med. 2021;47: 1181–1247.

まとめ

まとめ
  1. ピトレシンは、敗血症性ショックに対して、1.0〜2.0 U/h で使
  2. ピトレシン2A+生食38mL(40U / 40mL)で、1.0〜2.0 mL/h で使う
  3. ピトレシン5A+生食45mL(100U / 50mL)で、0.5〜1.0 mL/h で使う
  4. ピトレシン1単位のローディング投与が有効(VALOR study)

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