ボリコナゾール(英語:Voriconazole 略称:VRCZ 商品名:ブイフェンド)の特徴と投与方法をまとめます。
- VRCZは、カンジダ(C. krusei とC. guilliermondii を含む)、アスペルギルス(IPAの第1選択)、フサリウム、トリコスポロン、スケドスポリウム、クリプトコックスをカバーし、ムーコルをカバーしていない。
- VRCZは、1日目600mg/2x、2日目以降300〜400mg/2x 朝夕食後2時間で投与し、トラフ濃度 1〜4 μg/mL を目標としてTDMを行う。点滴の場合、1日目6mg/kgを12時間毎、2日目以降3〜4mg/kgを12時間毎、1V200mgあたり注射用水19mLが必要。
- VRCZは腎障害で減量不要だが、CCr<50mL/minで添加剤の蓄積毒性のため点滴を避ける。肝障害 Child-Pugh A・Bで維持量を半減、Cでトラフ濃度 1〜3 μg/mL とする。肥満で補正体重を用いる。
- 視覚障害、肝障害に注意する。長期投与で骨周囲炎、関節炎に注意する。
- CYP3A4→Tac・CsA・CY・VCR等、CYP2C19→LTV等と相互作用に注意する。
VRCZの位置付け
VRCZはC. krusei とC. guilliermondii もカバーする
FLCZやITCZと比べると、カンジダ全体に対する感受性が若干改善していますが、特にC. krusei とC. guilliermondii への感受性が改善しています。
ただし、C. krusei の出現頻度は2〜4%、C. guilliermondii の出現頻度は0.5〜1%です。山口英世. 病原カンジダ菌種の多様化とその医真菌学的インパクト. モダンメディア 2012;58:261
カンジダを対象として、あえてFLCZではなくVRCZを選択する場面は少なく、菌種と感受性が確定しているような時等に限られます。
出現頻度[%] | FLCZ | ITCZ | VRCZ | |
---|---|---|---|---|
C. albicans | 40-60 | |||
C. parapsilosis | 5-30 | |||
C. tropicalis | 5-30 | |||
C. krusei | 2-4 | |||
C. glabrata | 5-30 | |||
C. lusitaniae | 0.5-1 | |||
C. kefyr | 0.5-1 | |||
C. guilliermondii | 0.5-1 | |||
C. auris | <0.01 |
VRCZはアスペルギルスの第一選択
VRCZは侵襲性肺アスペルギルス症の第一選択です。
重症例ではVRCZとエキノキャンディン系の併用療法を考慮します。
第一選択 | 第二選択 | ||
---|---|---|---|
IPA | 侵襲性肺アスペルギルス症 | VRCZ L-AMB | ITCZ MCFG CPFG |
CPPA | 慢性進行性肺アスペルギルス症 | 導入:MCFG, VRCZ 維持:VRCZ, ITCZ | CPFG ITCZ L-AMB |
SPA | 単純性肺アスペルギローマ | 無症状→経過観察 血痰→気管支動脈塞栓 血痰→病変切除 | MCFG CPFG VRCZ ITCZ |
ABPA | アレルギー性気管支肺アスペルギルス症 | PSL 0.5mg/kg | ITCZ VRCZ |
VRCZは希少深在性真菌症の治療に用いられる
2023年現在、希少深在性真菌症の診断・治療ガイドラインが編纂中であり、出版されるのを楽しみにしております。VRCZは希少深在性真菌症のキードラッグの一つです。
VRCZはフサリウム、トリコスポロン、スケドスポリウム、クリプトコックスをカバーしています。
フサリウムの初期治療としてVRCZとL-AMBの併用療法が行われることがあります。
トリコスポロンとスケドスポリウムの治療において、VRCZはL-AMBよりも優れています。
VRCZはムーコルをカバーしていません。
VRCZ使用中のbreakthrough真菌感染症では、ムーコルを想起する必要があります。
FLCZ | ITCZ | VRCZ | PSCZ | MCFG | L-AMB | |
---|---|---|---|---|---|---|
ムーコル | ||||||
フサリウム | ||||||
トリコスポロン | ||||||
スケドスポリウム | ||||||
クリプトコックス |
VRCZの吸収率と移行性は良好
VRCZは、FLCZ同様に、吸収率と中枢神経を含む組織移行性が良好です。ITCZの吸収率が不良、PSCZの移行性が不良である点と対照的です。
ITCZは胃内pHの影響を受けますが、VRCZは胃内pHの影響を受けません。PPIとの併用可能です。
なお、糸状菌による内因性眼内炎に対して、VRCZの全身投与のみの治療は推奨されていません。
VRCZの投与方法
VRCZ 内服
剤型は3種類です。
- 錠剤 50mg
- 錠剤 200mg
- ドライシロップ(オレンジ風味) 2800mg → 水46mLで溶解して40mg/mL
初日のみローディングが必要です。
空腹時に内服します。特に脂肪分が多い食事の後では吸収率が低下します。
1日目 600mg/2x 朝夕食後2時間、2日目以降 300〜400mg/2x 朝夕食後2時間
なお、1日目は800mg/2x、2日目以降は600mg/2xまで増量できます。
また、2日目の投与量に幅がありますが、筆者は400mg/2xで使うことが多いです。添付文書では幅がありますが、後述のTDMガイドラインでは400mg/2xを推奨しています。いずれにしてもTDMと効果・副作用の状況を参考にします。
VRCZは非線形の薬物動態を示し、TDMが必要です。特に、日本人の5人に1人とされるCYP2C19のpoor metabolizerで、血中濃度が上がりやすいです。日本化学療法学会より抗菌薬TDM臨床実践ガイドライン2022 VRCZ executive summary 更新版が公開されています。
TDMは3〜5日目、トラフ濃度 1〜4 μg/mLを目標として行います。
トラフ濃度は投与目的毎に基準がいくつかあります。
- 予防 0.5 μg/mL 以上 ※ただしbreakthrough感染の報告あり
- 治療 1.0 μg/mL 以上
- アスペルギルス治療 2.0 μg/mL 以上
- Child Pugh Cでの肝硬変での副作用予防 3.0 μg/mL 未満
- アジア人での副作用予防 4.0 μg/mL 未満
- 非アジア人での副作用予防 5.5 μg/mL 未満
TDMのソフトウェアは下記サイトで配布されています。
VRCZ 点滴
剤型は1種類です。
- 静注用 200mg
1日目 VRCZ 6mg/kg + 1Vあたり注射用水19mL + 生食100mL 1日2回12時間毎に点滴
2日目以降 VRCZ 3〜4mg/kg + 1Vあたり注射用水19mL + 生食100mL 1日2回12時間毎に点滴
1Vあたり注射用水19mLが必要です。また溶媒は通常は生食です。5%ブドウ糖液でも配合変化はないと確認されています。
本剤を注射用水19mLに溶解した液(濃度10mg/mL)は、通常「日局」生理食塩水を用いて希釈して、点滴静脈内投与する(希釈後の点滴静脈内注射溶液濃度0.5〜5mg/mL)。
ブイフェンド200mg静注用 添付文書
VRCZ+注射用水 200mg/20mL=10mg/mLを、0.5〜5mg/mLに希釈するということは、2〜20倍に希釈するということですから、1Vあたりで、20mL x 2〜20 = 40〜400mLの総量にすることになります。1〜2Vなら生食100mLで良いですが、3Vの時は生食100mLだと結構パンパンになります。
腎障害・肝障害・肥満
腎障害では、経口投与を行い、点滴は避けます。特にCCr<50mL/minでは点滴は原則行いません。添加剤スルホブチルエーテルβ−シクロデキストリンナトリウム(SBECD)の蓄積毒性があるためです。経口投与での減量は不要です。
肝障害では、Child-Pugh A・Bでは初日の負荷量は同量で、維持量を半減します。Child-Pugh Cでは極力避けますが、どうしても投与が必要な時はトラフ濃度を 1〜3 μg/mLとして、肝機能を頻回にフォローします。
肥満では補正体重を用います。補正体重=理想体重+0.4 x (実体重−理想体重)
VRCZの副作用・相互作用
VRCZの副作用
視覚障害と肝障害に注意します。
視覚障害は「目がチカチカする」等の色覚障害や幻視症状が出ることが多く、予め説明しておきます。治療早期に生じ、基本的に一過性です。
治療や2次予防でVRCZを長期内服することもありますが、その際には骨周囲炎、関節炎にも注意が必要です。
VRCZの相互作用
多数の相互作用がありますが、血液内科領域で特に注意する薬剤について記載します。
CYP3A4阻害により、タクロリムス、シクロスポリン、エンドキサン、ビンクリスチンの濃度上昇が問題になります。VRCZの定常状態からの半減期は6〜9時間であり、高用量CY投与では1〜2日前から休薬し、終了後24時間以降で再開します。
レテルモビルとの併用で、CYP2C19が誘導され、VRCZの濃度が低下します。造血幹細胞移植後100日まで(症例によっては200日まで)はレテルモビルを使っていることが多く、VRCZはやや使いにくいです。もちろん、TDMを適切に行えば問題ないですが、この文脈においてはエビデンスも確立されているPSCZで代替できますし、真菌感染やGVHD治療がなければFLCZで十分です。一方で、日本ではPSCZのTDMに2024年1月現在保険適応がないため、VRCZにはTDMが可能という利点があります。
VRCZのエビデンス
VRCZのカンジダへの感受性の大規模研究(ALTEMISサーベイランス)
2001〜2007年に収集されたカンジダ19万株に対する、FLCZとVRCZの感受性のデータがまとめられています。
分離株数 | FLCZ | VRCZ | |
---|---|---|---|
C. albicans | 12万 | 98.0% | 98.5% |
C. glabrata | 2.3万 | 68.7% | 82.9% |
C. tropicalis | 1.5万 | 91.0% | 89.5% |
C. parapsilosis | 1.2万 | 93.2% | 97.0% |
C. krusei | 0.5万 | 8.6% | 83.2% |
C. guilliermondii | 0.1万 | 73.5% | 90.5% |
C. lusitaniae | 0.1万 | 92.1% | 96.7% |
C. kefyr | 0.1万 | 96.5% | 98.7% |
侵襲性アスペルギルス症に対して、VRCZはAMBよりも12週後の治療成功率と生存率で優れる
2002年NEJMに掲載された有名な国際的研究があります。侵襲性アスペルギルス症に対して、VRCZがAMBよりも有効性・安全性の両面で優れていることを明らかにしました。
VRCZ | AMB | |
---|---|---|
介入 | 1日目6mg/kg 1日2回 2日目〜4mg/kg 1日2回 7日以上は点滴 その後200mgを1日2回内服 | 1〜1.5mg/kg 1日1回点滴 |
12週後の 治療成功率 | ||
12週後の 生存率 | ||
主な副作用 | 肝障害 | 腎障害、低K血症 |
まとめ
- VRCZは、カンジダ(C. krusei とC. guilliermondii を含む)、アスペルギルス(IPAの第1選択)、フサリウム、トリコスポロン、スケドスポリウム、クリプトコックスをカバーし、ムーコルをカバーしていない。
- VRCZは、1日目600mg/2x、2日目以降300〜400mg/2x 朝夕食後2時間で投与し、トラフ濃度 1〜4 μg/mL を目標としてTDMを行う。点滴の場合、1日目6mg/kgを12時間毎、2日目以降3〜4mg/kgを12時間毎、1V200mgあたり注射用水19mLが必要。
- VRCZは腎障害で減量不要だが、CCr<50mL/minで添加剤の蓄積毒性のため点滴を避ける。肝障害 Child-Pugh A・Bで維持量を半減、Cでトラフ濃度 1〜3 μg/mL とする。肥満で補正体重を用いる。
- 視覚障害、肝障害に注意する。長期投与で骨周囲炎、関節炎に注意する。
- CYP3A4→Tac・CsA・CY・VCR等、CYP2C19→LTV等と相互作用に注意する。